あけっぴろげな現場、現場思いの河合氏

 記者はトヨタの国内工場を取材する機会がたまたまなかった(あってもスケジュールが合わなかったり後輩記者に譲ったりしていた)ので見たことはないが、河合氏の話から、現場の風通しの良さが目に浮かんできた。さすがに豊田社長が来れば緊張が走る(あるいは歓喜の声が上がる)だろうが、河合氏は常に現場にいる。現場からは、親しみの持てる先輩として自然に迎え入れられているようだった。

 だから、現場の人は河合氏に対していつもあけっぴろげだ。彼のことを「オヤジ」と呼び、仕事をしていない時は冗談を言って笑い合う。中には河合氏が入っている最中の朝風呂にまで裸で押しかけ、こんな告白をする者もいたという。

 「すみません!(ビシッと直立不動になって)昨日、不良を出してしまいました!」

 その時の河合氏の反応はこうだった。

 「お前!(ちらりと下に目線を移して)裸でそんなこと言われたら、怒ろうにも怒れんだろう!」

 あけっぴろげということは、何らかの異常や不正につながる過ちがあったとしても、それを隠そうとしない現場の心理を意味する。そんな状況を生み出せるのは、AIや機械には絶対にできない。河合氏のような「現場に愛のある人」だけだ。

センサーに頼らず「自分のセンサー」を磨け

 学校まで作ってしまうほど「人づくり」に力を入れていることで知られるトヨタ。その真意がどこにあるかを示すエピソードも聞くことができた。

 今やどの生産現場にも数多くのデジタル計測器が導入されている。寸法なら、計測器にモノをセットするだけで簡単かつ精緻に測れるし、温度なら、設備にあらかじめデジタル温度計を付けておけば自動ではじき出してくれる。

 ただし、その数字をそのまま信頼するのでは発展がないと河合氏は言う。人の目でその数字が正しいかどうかを判断できることが重要なのだ。

 「人の『五感』というのは本当にすごい。塗料だって今、(微妙に質感の異なる)色を見分ける技術がどんどん難しくなっている。だから計器でも見るようにしてるけど、まだ人ほどは見えない。技能者に色を見分けるテストをして、能力の高い人にマイスターの称号を与え、その人が最終的にチェックをするようにしている」

 「そうしないと、『もっといい品質のモノ』は作れない。機械でだけチェックしていたら、あらかじめ決められた色の範囲に入っていれば合格となる。でも、もっと高いレベルの肉眼で見れば、『こんなことじゃいかん。計器の(合格の)幅をもっと狭くしろ。もっと良くしろ』ということが分かる。技能というのは、計器が壊れていてもそれをすぐに見抜ける能力のこと。もっと良くできる能力のこと」

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