中東への依存度が落ちたから外交戦略を大きく変えた、というほど単純なものではないが、エネルギー安全保障という側面から見れば、打てる手は広がったはずだ。
中南米の反米地図も、原油で変化
とはいえ、原油価格と世界経済の問題に目を転じてみれば、混迷はなお続きそうだ。元々、原油価格低迷の一因は、シェールオイルの増産にある。価格下落で、破綻する採掘業者は増えているが、「生産量は大きくは減らない」(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの芥田知至・主任研究員)といわれる。価格下落で国内需要が伸びているためだ。
イランも欧米の制裁解除でようやく世界経済に復帰できるようになったのに、いきなり増産見送りや減産でサウジなどと合意するのは難しいだろう。サウジは、イスラム教でスンニ派と呼ばれる宗派に属し、シーア派のイランとは根深い宗教対立がある。
今年1月には、サウジが反政府活動をしたとしてシーア派の僧侶を処刑したことから両国は国交断絶にまで至っている。だからこそ、2月16日のサウジとロシア、ベネズエラ、カタールの増産凍結方針の合意にイランは支持を表明したが、実効があるとは見られていない。
こうした状況の中、国際エネルギー機関(IEA)は、2016年も110万バレルの供給過剰が続くと予測し、2017年もこれまでに積み上がった在庫が価格を押し下げると分析している。原油価格低迷シナリオの長期化である。
今、中南米のボリビアが米国の大使館再開に動き、デフォルト懸念が囁かれるベネズエラと共に米国に接近し始めている。これまで反米の急先鋒だった両国のにわかな変身は、親密なキューバと米国が昨年、54年ぶりに国交を正常化させたためといわれるが、それだけではない。財政を支える原油収入の急減で、いざという時に米国の支援を受けられるようにするためではと市場では囁かれる。
原油安と地政学リスクは相互に影響仕合いながら、また新たな状況を生み出している。
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