お互いを信用しない

「はした金で研究に口出ししてくる」(国立大学教授)
「納期も守らない、知的財産の考えも適当」(メーカー技術者)

 これは産学連携がうまくいかない理由を聞いたときに返ってきた答えだ。複数に取材したが、いずれも同じような内容だった。すべての産学連携がそうだとは言わないが、この「同床異夢」とも言える状況が、うまくいかない原因の一つであることは間違いない。

 大学の言い分を詳しく聞くとこうだ。

 「億を超える研究費を扱う中で、企業が出す研究開発費は数百万円程度。本気だとも思えないし、それで厳しく成果をって言われても…」
「大学は研究して論文を書いてそれが学会などで認められないと偉くなれない。産学連携ばかりに没頭すると、基礎研究に費やす時間がなくなって自分の居場所がなくなる」

 大学は企業が本気でないのを見抜いているし、自分の組織での立場を守るためにもあまり時間をさけないというシステム上の問題があることが分かる。一方の企業の言い分は、

 「ちゃんと研究成果が出るか未知数のものに、多額の研究開発費を出すのは難しい。リスクを背負える額を見積もって出しているだけ」
「投資した以上は、会社への説明責任があるので、成果がどうなったかを聞くのは当然」

 といったものだった。企業側も思い切った投資が許されるような組織になっていないことなどがうかがえる。さらには、

 「先生が複数の企業から研究費を受け取っていて、新しい知財の成果が誰のものかごちゃごちゃになってもめた」
 「秘密裏に開発していた研究内容を、大学の先生が学会であっさりしゃべってライバルに知られてしまうことがあった」

 といった大学側の“常識のズレ”を指摘する声もあった。こうした構図で生み出された失敗は、大学側も企業側も互いに組むのはもう嫌だと避けるようになって、ますます産学連携で成果を生み出すことが難しくなるという状況になっている。

 大学は現状、毎年補助金を減らされるなど十分な資金を得られているとは言い難い状況だ。その一助として企業からの資金をうまく取り入れられるかがカギになるが、企業と大学の現場の相互不信は根深い。

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