流行語に込めた、鼓舞と自戒

 「なぜ企業広告でIoTを謳ったのですか」。野路國夫会長に質問をぶつけると、「社員らを鼓舞するため」という答えが返ってきた。

 冒頭に書いたように、近年、コマツが主力とする建設機械や鉱山機械の需要は低迷している。中国では生産台数が最盛期の10分の1に落ち込んだ工場もあり、2016年3月期の売上高と営業利益の伸び率はいずれも、3年ぶりのマイナスとなる見込みだ。

 外部環境が厳しいからこそ、自社の社員や代理店、部品メーカーといった“仲間”がやる気を出せるように盛り上げたい。そのために、バズワードであるIoTを大きく謳い、コマツが早くからそれに取り組んできた企業であることを強調した。分かりやすい理由だ。

「みんな勘違いしていないか」

 ただ、取材を重ねるうちに、異なる理由も考えられることに気がついた。大橋徹二社長が今のコマツに対する問題意識を、こう語っていたのだ。

 「何だか、うちは放っておいても『良い会社』だという雰囲気が(社内に)あって。とんでもねえ、みんな勘違いをしていないか、と」

「とんでもねえ」と話す、大橋社長(写真:的野弘路)

 最近でこそ逆風にさらされているが、それまで十数年、コマツには追い風が吹き続けていた。新興国の発展を捉えて2000年代に急成長を遂げた。コムトラックスという武器を使いこなして、金融危機からも素早く復活した。世間から脚光を浴びることが増え、社員が自ら「コマツは良い会社だ」と、口にするようになった。

 働く会社を誇りに思えることは大切だ。いっぽうで、それは慢心と紙一重でもある。大橋社長がハタと気がついた時には、バブル崩壊の後遺症に苦しんだ時代の記憶は社内で忘れ去られつつあった。無謀な多角化のツケが回って2001年度には赤字に転落、多くの人が会社を去った。こうした危機があったことさえ知らない世代が、ずいぶんと増えた。

 「ゆでガエルにならないように、(コマツを)みんなで変えないと」(大橋社長)

 そのために、あえてIoTを使った。