マーケティングに力を入れない代わりに、顧客との対話する時間を大切にしている。同社は工場上にショールームを設置した。その場所は川崎の武蔵小杉駅から徒歩20分ほどかかる。

 わざわざ来てくれた見込み客であるため、じっくりと好きな音を納得いくまで聞いてもらう。「こんな不便な場所に冷やかしの方は来られない。だから我々も何時間でもお付き合いする」(細尾社長)。閉店時間が過ぎても試聴に付き合うこともあるという。

 販路開拓も高級オーディオを扱う専門店の担当者に的を絞り、気に入ってもらえた店とだけ取引する営業手法を採用している。「販売員の頭のなかには、見込み客が数人浮かんでいることが多い。彼らに丁寧に説明すれば売れる」(細尾社長)。

 エスネクストのように対象顧客がはっきりすれば、営業にかける人員も最小限で済む。人員に限りがある中小企業でも大手と対等に張り合える戦術といえそうだ。

日本のマンガの新しい輸出モデル

 エスネクストのように徹底的に顧客を絞り込んで戦う土俵を変えてしまう方法もあれば、販売先を海外に移すやり方もある。それを実践するのがアニメなどのコンテンツ管理や配信を手がけるダブルエル(東京・品川、保手濱彰人社長)だ。収入が減っている漫画家に新しい稼ぎ方を提案している。

 それが海外の原作を元に、日本人の漫画家が描くモデルだ。現地で人気がある原作を日本人の漫画家が描く。漫画家がアイデアを考えても、ヒットする確率は不透明。しかも海外となると好みが異なり、成功のハードルはあがってしまう。その点、原作があれば大きくはずしてしまうことは少ない。

 このモデルでダブルエルが目指すのは漫画家の収入の安定だ。漫画家はヒット作品を生み出せば高額な報酬を得られるが、ヒット作に恵まれないと収入がないといったように安定性に欠けていた。「漫画家に1ページ1万円以上は支払え、日本での仕事よりも高い報酬を払える。仕事量が一定になり、収入もぶれなくなる」(保手濱社長)。 

 国内の漫画市場は15年ほど前まで5000億円ほどあったものの、年々縮小傾向にある。漫画家が活躍できる場は減っている。ダブルエルによると、漫画家に支払う単価も下落する一方だという。保手濱社長は「デジタル配信で作品を公開する場は増えているが、漫画家として生活できる人はひと握りしかいない」と指摘する。

 日本の漫画家は決して売れっ子でなくても技術力が高いという。「週刊誌の連載のように、何週にもわたって飽きさせないストーリーを考える能力はほかの国の漫画家と比べて長けている」(保手濱社長)。海外でのアニメや漫画の需要は大きい。漫画家の業務を分解して強みだけ残したことで、新しい市場を開拓しようとしている。

 この2つのケースのように戦う土俵を変えれば、従来とは異なる市場に挑める。既存の顧客層と異なり、収益も確保しやすい環境が整う可能性がある。

 ただし、土俵を変えるには大きな決断が不可欠だ。競争相手が多く収益が厳しいとはいえ、一定の需要を捨てる勇気が必要となる。ただし価格設定を大きく変えれば、対象顧客をがらりと変えられる。この変化対応力はイヤホンや漫画に限らず、多くの業界で求められている考えではないかと感じた。