家事に育児と、24時間365日働くのが主婦である。給与がでないというだけで、経済的にも社会的にも多大な貢献をする存在であることは変わりない。私も36協定を結びたいと、臨時専業主婦さんが叫ぶのはうなずける。「家庭内36協定」が成立するような環境を実現すれば、政府が掲げる「一億総活躍社会」も実現に近づこうというものだ。それでは、実際に家庭内で36協定を締結することはできるのか。

 まず36協定について、簡単におさらいをしておこう。労働基準法32条で1日8時間、週40時間を超えて労働させることを禁止している。ただし、労使が36協定を締結すれば、この上限を原則月45時間、年間360時間まで引き上げることができる。さらに、特別条項付き36協定と呼ばれるものを結べば、この上限を取り払うことができる。

 特別条項付き36協定を結べば、労働時間は青天井。さらに以前の本誌調査でも明らかになったように、そもそも「サービス残業」が常態化しているという有様。今回の政府原案は、この特別条項付き36協定に上限を設けようとしているわけだ。その上限時間設定にあたって焦点になりそうなのが、いわゆる「過労死ライン」を超えることを認めるかどうかだ。

 脳・心臓疾患についての過労死ラインは、発症前の2~6カ月の時間外労働の平均が80時間を超えていること、もしくは発症前1カ月で100時間を超えていること。精神障害については発症の1カ月前に160時間か、3週間前に120時間の時間外労働があること。また、発症前2カ月連続で120時間、3カ月連続で100時間の時間外労働がある場合とされている。

 さて、家庭内36協定を結ぶためには、パートナーによる家事・育児の分担が欠かせない。パートナーの勤務時間を午前9時から午後6時、週休2日で法定労働時間通りの8時間(休憩1時間を含む)とする。通勤時間は30分ずつで計1時間。睡眠は各々8時間としよう。すると、パートナーが家で活動できるのは7時間。残る9時間が主婦のみが家庭を守り、家事労働をする時間となる。もちろん、実際には夜泣きで起こされたり、夫婦で寝る時間がずれたりするし、パートナーが家事・育児を完璧にこなせるかも不明。乱暴すぎる設定であるのは百も承知だが、パートナーが残業なしとしても、ひとまず1日あたり11時間程度は主婦は育児・家事に専念する必要があるとしてみよう。

 これは政府原案にある、月平均60時間という数字と符合する。月間労働日数を20日とした場合、ちょうど残業時間は3時間となるからだ。すなわち残業なしで帰宅するパートナーがいれば、家庭内でなんとか新しい基準における「特別条項付き36協定」を結ぶことができそうだ。

 パートナーが残業するとどうなるか。月平均60時間の時間外労働の場合、パートナーは朝9時から夜9時まで働き夕飯を食べずに帰宅する。計算上は家で4時間活動できるが、疲労なども蓄積しているだろうし、家事や育児に持続的に向き合うことは難しいだろう。家庭内36協定どころの話ではない。もちろん、このようなケースでは主婦が働きに出ようとしても相当ハードルが高いだろう。一億総活躍など夢のまた夢ということになりそうだ。

 これまで機能していなかった労働時間規制に実効性をもたせようとする、政府原案が一歩前進なのは間違いない。働き方改革実現会議に参加する労使ともに受け入れる方針を示しているのも評価できる。ただ、そこで定める基準は目標値などではなく最低ラインに過ぎないことは、働き方改革に取り組むすべての企業が改めて肝に銘じるべきだろう。

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