比較という点では、消費者に参照できる価格を提示することで、売り込みたい商品の価格がお値打ちであることを示すことも重要だ。例えば、バーゲン時には定価をあえて見せたうえでバツ印を付けて、「~割引き」といったバーゲン価格を示している。定価や同等品と比べてお得感を示すことで、消費者は安心してその商品を購入できる。「『損失回避性』といって、人は利益を得ることよりも損を避ける傾向がある」(ルディー和子氏)ので価格に納得感を与えることが欠かせない。

 そして、企業が高価格帯の商品を売りたい場合に重要なのが、商品にストーリーを作ることで価格に納得感を与えることだ。「人間は物語が好きで、感情移入をしやすい。脳の活動を分析する機器を使ったある実験では、登場人物に感情移入をしながら小説を読んでいる読者の脳の中では、登場人物が本の中で感じていることや経験していることを、まるで自分自身も経験しているかのような反応が起きている」(ルディー氏)。

 競合品とは違う価値があり、価格が高いのにはワケがあるという作り手のこだわりをストーリーとして丁寧に伝えられれば、高額商品であっても、その価格に納得感が与えられる可能性は高まる。

居酒屋には3000円のカベがある

 人間の心理に基づいた値付けに最も熱心な業種の1つが「外食」だ。外食業界のベテランコンサルタント、石田義昭氏は「居酒屋には客単価3000円のカベがある」と話す。来店客は使うお金を1人3000円前後までに抑えたいと考えている。一方で、料理は3品・ドリンクは2~3杯を楽しみたいとも思っている。その結果、「1品あたり600円を超える金額の商品は頼みたくない」という心理が働いていると石田氏は指摘する。

 見方を変えれば、1品あたり600円の半額以下の商品であれば、注文数のカウントも楽で安心して注文ができる。急成長している焼き鳥専門店チェーンの「鳥貴族」は全品280円。串カツ店チェーンの「串カツ田中」も1本100円台のメニューがメーンだ。「この値段設定なら簡単には3000円を超えないと感じるので、料理やお酒を安心して楽しめる」(石田氏)というわけだ。

 鳥貴族の2017年7月期は売上高25%の増収予想。串カツ田中も2017年11月期は売上高28%の増収予想と共に好調に推移している。値付けを工夫した商品をそろえることの効果の高さを、この2社の躍進は証明している。

 冒頭で触れたとおり、消費者が失ったのは物欲ではなくて所得だ。現在、政府はデフレからの完全脱却を目指しているが、その効果が労働者の所得にまで及ぶようになれば、消費者は徐々にお金を使うことができるようになるはずだ。そのときに備えて、物欲を刺激する価格設定について今のうちから準備を進めることは有益なはずだ。

鳥貴族(左)と串カツ田中。共に価格設定に特徴があり、業績が好調なチェーンだ