特集班が炎上必至だと考えたのには理由がある。謝罪・炎上トレンドを取材する中で「ジェンダー」がキーワードの一つとして浮かんでいたからだ。

 25歳の誕生日を迎えた女性に対し、同性の友人が「今日からあんたは女の子じゃない」「もうチヤホヤされない」などと厳しく指摘する化粧品のCM。放送直後から批判が殺到し、資生堂は撤回を余儀なくされた。テレビCMではないが、特産の養殖ウナギをPRするため、女性をウナギに見立てた動画を公開した鹿児島県志布志市も激しい批判に晒されるなど、ジェンダー絡みで炎上する案件が目立っている。

 ただ、炎上案件の大半は女性蔑視との批判が起きたCMで、男性蔑視で炎上した案件はほとんどなかった。ENEOSでんきのCMも恐らく男女逆に描かれていたら、つまり家計を管理できない専業主婦に対して、「安い電気に替えるか、やりくり上手な妻に替えるか」などと突きつける内容だったとしたら、大炎上を招いていた可能性が高い。そうなった場合、「男は仕事で女は家事」という設定そのものにも批判の矛先が向けられていたに違いない。

 現実にそうならなかったのは、やはり男が槍玉に上げられている点が大きいのだろう。

ブラックジョークとして成立

 企業の危機管理を手がける経営コンサルタントにも話を聞いてみた。

 「確かに不快と思う人がいるとは思いますが、結論から言えば、グレー、セーフだと考えています」

どうしてですか。

 「小池栄子さんの発言はハラスメントではあるけど、パワハラではありません。一般論で言うと、主婦は夫に対して優越的な立場になく、ブラックジョークで済んでいるからです」

なるほど。でも一部で女尊男卑との声は上がっています。

 「男女の立場が逆ならブラックジョークにならない可能性はありますが、今回のCMの場合には、古舘さんのコミカルな演技が発言の毒気をかなり中和しているように感じます」

 JXエネルギーが際どいCMを打ち出した背景には、電力小売り事業の激しい競争環境も少なからず関係していると考えられる。

 昨年4月、企業や店舗などの事業者だけでなく、一般家庭も自由に契約先の電力会社を選べるようになった結果、他業種から多くの企業が電力小売り事業に参入した。だが、お値打ち感を打ち出しにくく、セット割など契約形態が複雑といった理由から、実際に契約先を切り替える家庭は大きく増えていないからだ。

 先の経営コンサルタントも「厳しい競争で差別化が難しい中、目立とうと、あえて“確信犯的”に際を狙ったCMを打ち出したのではないか」と指摘している。

 ブラックジョークが通用するのは、各人が共通理解として持つ社会通念を踏まえていることが大前提となる。今回のCMが炎上しなかったのはとりもなおさず、「男が仕事で女は家事」という考え方が社会通念として未だ確固たる根を張っているからに他ならない。

次ページ 「24時間戦う」は炎上する?