ましてやNYTとワシントン・ポストは、インテリ層が読むことで知られる2媒体だ。トランプ氏陣営に票を投じたのは、既存の上流階級(エスタブリッシュメント)が世の中を牛耳るのを嫌う低・中所得層だったと指摘される。NYTやワシントン・ポストがどんなにトランプ氏を批判しても、トランプ氏が両紙を仮想敵として攻撃し返すことで、トランプ派によるトランプ氏の支持は、より強固になる恐れすらあるのではないか。

 実際、トランプ氏は1月28日、自身のTwitterで「NYTとワシントン・ポストの私に関する報道は間違いだらけ」と怒ってみせた。原文をみると「Thr coverage about me in the @nytimes and the @washingtonpost gas been so false(以下略)」。「The」と「has」の綴りの間違いに、トランプ氏の両紙への怒りがにじみ出ているが、このツイートには8万件を超える「Like(いいね)」がついている。

 トランプ・ループの罠から抜け出すにはどうすればいいのか。誰しもが戸惑いをみせるなか、トランプ流にあわせた行動指針を打ち出す報道機関も出てきた。

それは「ロイター流」ではない

 「米国の大統領が、記者を『地球上で最も不誠実な存在』と呼ぶとか、政権幹部がメディアを『野党』呼ばわりすることなんて、よくあることではない」

 ロイター通信の編集長、スティーブ・アドラー氏が1月31日、世界に散らばる記者に向けて送ったメッセージの冒頭部分だ。ここまではNYTと似ているが、結論は異なる。

 「では、ロイターはどう対応するか。政権に反対する? 譲歩すればいい? それとも記者会見をボイコットする? あるいは私たちのプラットフォームを使って、(国民から)報道機関に対する支持を呼びかけることなのか」

 そうではない、とアドラー氏は続ける。

 「こう考えるメディアが存在するのは確かだし、媒体によってはそれも正しいかもしれない。けれど、それは『ロイター流』ではない」

 かわりにアドラー氏が訴えるのは「要らぬケンカは売らない」姿勢だ。ロイターが見つめるべきは政権ではなく、読者。大切なのは「読者がどのように暮らし、何を考え、なにが読者の生活を傷つけ、あるいは手助けとなっているかを取材すること」。そして「政府の動きが読者にどう受け止められるかを念頭に取材すること」だという。メディアvs.政権という構図は記者にとっては関心事かもしれないが「それは内輪話にすぎず、読者は興味を示さないかもしれない。それに(興味を持ったとしても)もしかしたら私たちを支持してくれないかもしれない」。

 大統領就任前の記者会見では、記者を指さして「Fake news」と叫ぶトランプ氏の言動が報道された。だが「日々のフラストレーションはあると思うが、それを表に出すことはやめよう」とアドラー氏は訴える。ロイターは100カ国以上から現地記者がニュースを発信している。中国、ロシア、イラク――。政権がメディアを攻撃する国なんて、米国以外にもいくらでもある。「どこにいても、人々の生活に関係し、人々がより良い決断をして暮らせるのに資する報道をしよう」(アドラー氏)

 「トランプだって必死なんです」。自動車業界に詳しいあるアナリストはこう語る。「史上最低の支持率で発足した政権なのだから、スタートダッシュで点を稼がないと2年後の中間選挙で負ける。すると、史上最低の大統領として歴史に名を残すことになる」

 トランプ氏の前例ない行動に戸惑い動揺するのは自動車メーカーや製薬業界だけではない。同氏のスタイルとどう向き合うのか。私たちメディアも、トランプ流との向き合いかたを早急に確立させなければならない。自戒も込めて、そう痛感している。

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