旅の目的は「モノ」から「体験」へ

 BCGの調査では、中国人旅行者は旅行予算のうちの約40%をショッピングに費やすという。単価の高いラグジュアリーブランドのバッグがポンポン売れていく現在の状況を見れば、この数字はうなずけるだろう。

 しかし、このトレンドに追従するだけでは今後の中国人の旅行市場をきちんと取り込めない恐れがある。BCGは2010年と2013年に実施した中国人向けの調査で、「旅行で今後何にお金を使いたいか」という同じ質問を設けている。結果は、「食事」「ホテル」の回答率の伸び幅の方が、「買い物」と答えた人のものよりも10ポイント以上高かった。

 これは、中国人による旅行市場が今後少しずつ変化していくであろうことを示唆している。炊飯器やサプリメントを大量に買い込み、持って帰るような楽しみ方が中心だった旅行者も、旅行慣れし、また、生活水準が上昇してモノの充足感が高まれば、興味・関心が買い物からシフトしていくだろう。「もっとおいしいものを食べたい」「もっといい場所に泊まりたい」「訪ねるその土地ならでは新しい経験をしたい」といった、「モノ」から「体験」へと変わっていくのは確実である。

 事実、百貨店や専門店などを取材していると、皆口をそろえて「前みたいに『爆買い』していない」「荷物が少なくなっている」という声が聞こえてくる。旅行者の数が増加傾向であるという基調はこれまでと変わっていないが、旅行者の行動や興味分野は、明らかに変わりつつあるといえる。

 日本は今、「ホテル不足」といわれていたり、レストランの外国語のメニューが充実していなかったりと、必ずしも買い物以外での旅行環境が整備されているとは言いがたい。東京オリンピックが開かれる2020年に向けて改善の取り組みは進んでいるのだろうが、まだ、買い物と比べて速度は遅いように感じる。

 銀座の料亭では、こんな声も聞かれる。「外国語対応は難しいし、外国人は予約時間にルーズなのでお断りしていたが、受け入れを始めてみたら日本人より客単価が高くてびっくりした」。

 最近では、ぐるなびのように、外国人向けサービスを強化したい飲食店向けのソリューションを提供する企業も増えてきた。同社では、外国語メニューを簡単に作れるようにしたり、予約のドタキャンなどを予防すべく、リマインドの電話を代行したりするサービスも提供している。ちょっとした工夫で、訪日外国人の次なるニーズとの接点を広げることは可能だ。

 消費のすそ野を広げる方法は買い物だけではない。価値あるサービス、体験にお金を払う時代はもう目の前まで来ている。「買い物」「観光」「食事」「宿泊」すべての条件がトータルで整った時、本当の「観光立国」になれるのではと思う。