今年からセルフメディケーション税制(医療費控除の特例)が予想通りひっそりと始まった。同制度では大衆薬(一般用医薬品)の年間購入額が1万2000円を超えると、確定申告で所得税が一部還付されたり、翌年の住民税が減額されたりする。従来の医療費控除は自己負担した年間医療費が1世帯で10万円を超えた人が対象なので、適用のハードルは下がったといえる。

 

 セルフメディケーションとは「自分自身の健康に責任を持ち、軽度の不調は自分で手当てする」という意味だ。普段から健康的な生活を心掛け、少々の風邪なら病院に行かず大衆薬で治そうという人が増えれば、国の医療費抑制につながる。そういう人たちには減税で報いようという趣旨だ。

 「予想通りひっそり」と書かざるをえないのは、日本OTC医薬品協会らが当初求めていた案から後退しているからだ。対象商品が医療用医薬品から転用された「スイッチOTC」のみ。スイッチOTCは大衆薬の1~2割程度に過ぎないとみられる。

5人家族でも利用できず

 購入額1万2000円という下限を超えるのも実は難しそうだ。調査会社のアンテリオが昨年11月末に発表した調査結果では、実際に大衆薬を利用している世代の年間平均購入額は9349円だ。税制対象となる1万2000円超えの世帯は全体の1割に過ぎない。記者宅には幼児3人がいるものの、子供たちの医療費は自治体から全額助成を受けている。花粉症の季節を除けば、夫婦で毎月大衆薬を1000円分も買わない。

 それに1万2000円をわずかに上回る程度では誰も利用しないだろう。厚生労働省は利用イメージとしてこのような例を挙げている。「課税所得400万円の人が年間にスイッチOTCを2万円買った場合、8000円(購入額2万円-下限額1万2000円)が課税所得から控除される。その結果、所得税1600円と個人住民税800円の減税効果がある」。この節税効果のために薬のレシートを貯めて、確定申告する労を厭わない人は多数派ではあるまい。

 さらに、この控除の恩恵に預かるには「健康の保持増進及び疾病の予防」への取り組みが必須条件になっている。特定健康診査、予防接種、定期健康診断、健康診断、がん検診のうちいずれかを受けて、領収書もしくは結果通知書を提出しなければならない。

 だから、セルフメディケーション税制について製薬業界の関係者は「小さく生んで大きく育てればいい」と口をそろえる。2014年に始めたNISA(少額非課税投資制度)も毎年のように制度が拡充されてきた。2021年12月31日購入分までの時限立法であるセルフメディケーション税制も、2年後には対象商品などの見直しが実現する可能性はある。