そもそも、越境ECは「個人輸入」という位置づけなので、天猫国際が中国国内の薬事法に準拠していない医薬品を販売しても、問題はない。ただ、これまではトラブルを避けるため、自主規制でアリババはこうした医薬品の販売を禁止してきた。12月下旬の規約改正では、「安全性が担保できる」(アリババジャパン広報)香港と日本製に限って一部医薬品の販売を可能にした。
アリババが解禁に踏み切った大きな理由は、なんと言っても、中国での日本商品の人気ぶり。現在、天猫国際には日本のドラッグストア、マツモトキヨシやキリン堂などが出店しているが、こうしたショップでは、日本製の化粧品やヘアケア商品などが大人気となっている。従来商品に加え、販売対象が神薬にまで広がれば、「市場は2倍以上に広がる」と、アリババは見ている。
しかし、アリババの思惑通りに市場が爆発的に拡大するかと言うと、可能性は未知数だ。大きな期待を背負う神薬だが、解禁から1カ月経過した1月中旬現在、天猫国際に出店している店舗で日本の医薬品を販売している出店者はまだない。
天猫国際で医薬品を販売するには、アリババに対して、販売証明書などを提出しなくてはならない。こうした手続きの煩雑さも理由の1つに挙げられるが、それ以上に、製薬企業、卸・小売りが現時点では慎重な姿勢であることが大きく影響していると考えられる。
巨大市場を前に二の足を踏む日本企業
日本の医薬品を購入した消費者にトラブルがあった場合、越境ECは個人輸入だから、メーカーが責任を問われることはない。とは言っても、ブランドイメージが毀損されることを恐れて二の足を踏む日本企業は多いとみられる。日本語で書かれた説明書しか添付されていない薬品を販売して、メーカーが想定していない方法で利用された場合のリスクは確かに考えられる。
もちろん、日本で販売するもののうちの一部を、卸や小売りがメーカーに黙って越境ECに回すということも、理論的には可能。だが、「越境ECを大々的に拡大するならば、それ用ということでメーカーから手配しないと現実的には物量を確保できないだろう」(大手日用品メーカー)。
当の小売側も積極的とは言い難い。天猫国際に出店しているある大手小売りの関係者は「中国政府は医薬品の輸出入にあまりいい顔をしないので、将来的には政府とのトラブルが発生するリスクも大きい。正直、現時点では手広くやりたくはない」と話す。
ただ、既に日本を訪れる中国人観光客の爆買いのインパクトはすさまじい。あるドラッグストアの関係者は「神薬については、日本国内の物量を確保するのも一苦労。出物があれば、すぐに在庫を押さえろと指示している」と話す。
既に一定量の日本の薬が海外で利用されているにもかかわらず、越境ECにおけるリスクを意識するばかりでいいのか。それほどの大きな需要がある市場をみすみす見逃す手はないだろう。
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