写真はこの高層棚を下端から見たものだ。棚の間の幅は人ひとりが入れる程度。とても窮屈だ。そして、見上げると9mはやはり高い。高所恐怖症の記者にとっては、この棚で作業をすることを考えただけで気絶しそうだ。訪問したのは午前中で明るかったが、夜間は暗くなりそうで、危険を伴う作業になると感じた。
QCサークルのメンバーは当初9人で結成。事故を防ぎながら作業効率を上げる方法を、業務や訓練の合間や終わった後に集まり、数カ月かけて議論を重ねた。
対応策が「現場から出てくること」が重要
サークル活動での議論を経て、様々な取り組みが講じられた。まずはこれまでの発注実績をもとに、頻度が高いのに棚の上部にあった部品を、下の棚に移動。部品の破損を防ぐために落下防止用のネットを置いたほか、棚から取り出した部品を隊員がしまえるリュックも用意した。
隊員のケガを防ぐため、作業中は各隊員に命綱の着用を促した。落下防止用のネットは隊員のケガを防ぐ狙いもある。梯子に滑り止め防止シールを張って足を踏み外さないようにする工夫もした。
高所での作業時に命綱やネットを用意するのは、建設現場やビル外壁の清掃現場などではよく見かける光景だ。それが入間基地の部品を取り出す作業でこれまで使われてこなかったことにむしろ違和感を覚えたが、年3回程度なら我慢して、ということもあったのだろう。
こうしたQCサークルでの改善策を通じて、手作業での出し入れに不安を感じる隊員がほぼいなくなったという。
対策の内容自体はシンプルで、民間企業の工場ならば既に導入しているようなものばかり。ポイントは、自衛隊という階級が強く意識される組織で、職場環境の改善を上から指示するのではなく、現場が主導してより良いものに仕上げたことだ。
現場の隊員は自主性を発揮する場を与えられたことで作業効率が上がり、やる気アップにもつながったとして、この活動は、自衛隊内で広く紹介された。
入間基地ではこれまでにも複数のQCサークルが立ち上がり、業務改善を通じて、作業の効率化と隊員のモチベーション向上に役立てている。現場が主導して職場環境を良くすることの重要性は、企業・自衛隊に関わらずどの組織でも同じ、と実感した取材となった。
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