移住政策は若い世代を呼び込み、村の人口減少に歯止めをかけ、永続させることを狙っている。そのため値下げ策も子育て世代を主に狙っている。

最大400万円の大幅値下げを断行

 その内容は、夫婦がともに45歳以下なら100万円、同居する子供が1人なら50万、2人なら2人目に対して100万円、3人なら3人目に対して150万円という具合に最大400万まで減額する。45歳以下の夫婦で子供2人なら250万円、3人なら400万円の減額になる。

 販売価格が1000万円程度なので400万円の減額を受けられれば600万円程度で50坪の宅地を手に入れることができる。

 この値下げ策はテレビ番組などマスコミにも取り上げられ、問い合わせも殺到した。政策推進課の川瀬久弥課長は「減額してからの問い合わせは100件を超えます。減額前は数件しかなかったので、かなりの効果がありました」と話す。

 見学者は近隣からだけではなく、横浜や鎌倉、横須賀、藤沢市などからも訪れた。中にはかなり話が進み、成約を目前にしたケースもあったと言う。

 だが、それでも売れない。値下げして話題になり、見学者が多く来るようになっても売れない。ここまで状況が厳しいと、大矢村長が「なぜ、売れないのか」と首をかしげる気持ちも理解できる。

 不動産市場の状況や、この物件そのものの評価の分析を清川村は現在進めている。見学者の意見、感想から購入に踏み切れないいくつかの理由が浮き彫りになっている。

 まずは立地だ。舟沢地区は交通は至便だが、周囲には保育園や幼稚園、小中学校などの教育機関、さらには図書館や公民館といった公共施設がない。これらは、県道をさらに奥に行った村役場の周辺にある。そのため、子育て環境としてはむしろ、村役場周辺がよいのではという意見が多いという。

 さらには販売方法だ。分譲地として格安だが、自分で家を建てるとなると費用も時間もかかる。都市部の土地付き建て売り住宅と比べると、お買い得感が薄れる面もある。

 また、田舎暮らしにこだわりを持つ人は、舟沢地区よりバスでさらに30分山奥に行った宮ヶ瀬地区に住みたいと考えているようだ。

 実際、清川村が以前に宮ヶ瀬地区で宅地分譲したときはすぐに買い手がつき、すべての区画を完売した。現地を訪れると、蒔ストーブがある家や、庭にバーベキューセットを用意している家、カヌーを置いてある家などアウトドア好きがこだわって建てた家々が並んでいる。

 現在、清川村では2016年4月度に向けて、舟沢地区の宅地分譲販売について、てこ入れ策を検討している。建て売りで販売すれば、すぐに買い手が付く可能性もあり、村の期待も高まっている。

都市部との断絶がかえって動機付けになる

 清川村の事例から垣間見えるのは、地方移住の難しさだ。働く世代にとってはなにより職の確保が必要。さらに子育て世代には教育環境が欠かせない。

 そして、もうひとつ必要なのは、都会の生活を変え、自然豊かな環境で過ごしたいという強いモチベーションを喚起することだろう。

 以前に島根県の隠岐諸島にある海土町の移住政策を取材したことがある。鳥取県米子市からバスに45分乗って境港港へ、そこからフェリーでさらに2時間30分かかる場所だ。東京や大阪などから観光で行くにも大変な場所だが、移住政策の成功例として全国の自治体などからひっきりなしに見学者が訪れる。

 農業や水産業の振興を図り、高校など教育体制を充実させたことが、島外から人を呼び寄せた。さらに、イベントなどで多くの人を島外から呼び込めることが分かり、イベント関連事業で新たな仕事を生んだ。仕事が増えることで移住者を新たに呼べるという好循環を生み出した。

 これらに加えて、本州から2時間30分かかる「島」という環境が移住者の背中を最後に押していると記者は考えている。都市部との断絶がかえって動機付けになることもある。

 都市生活者にとって田舎暮らしは、憧れることはあっても決断するのは容易ではない。仕事や教育環境など現実を考えれば考えるほど、夢は夢で終わってしまう。もう後戻りできないという状況に自らを追い込んだからこそ移住者たちは決断を下せたのだろう。そう考えると、地方自治体などが地方移住を進めるためには、移住者にとって思い切って田舎に飛び込みたいと思わせるような場所を、移住先として提供する視点が必要になる。

 地方創生に伴う地方移住策が本格化してきた今、各自治体は試行錯誤の中から革新的な政策を生み出すことが求められている。