だがそれでも、米国が敢えて原則を撤廃することには強い不安を覚える。というのも、今回の決定は、意に沿わない言論を封じたいと考える人々の背中を押すことになりかねないと考えるからだ。

 通信インフラの運用を国が担っていたり、民営化していても国の意向が強く反映されたりする国は新興国を中心に多く、政府が頻繁にネットを検閲し、サイトへのアクセスを遮断している国も数多くある。米国の判断が、たとえば政情不安な新興国で、現政権に対する批判的なサイトへのアクセスを遮断するお墨付きになりかねないと記者は恐れる。「米国だって中立ではないだろう」と。

 ネットや通信に関する施策は国ごとに異なり、米国が中立を撤廃したところで各国の判断が直ちに変わることはないかもしれない。それでも、ネット大国であり、ネットの文化そのものを生み出した米国の判断は重く、その影響が皆無であるとは考え難い。

アジアで230万人の利用者を集めた日本人ベンチャー

 ネットの中立性を保ったまま、同時に利用者の裾野を新興国の低所得層にも広げる手段はないのか。

 これをビジネスとして実現しようと奮闘する経営者もいる。ディー・エヌ・エー出身の深田洋輔氏だ。2012年にシンガポールでYOYOホールディングスを創業。「PopSlide(ポップスライド)」というアプリを開発し、フィリピン、インドネシア、べトナム、インドの4カ国で展開している。

 利用者はアプリの広告プログラムを通じて得たポイントをスマホの通信料金に充てられる。つまり獲得したポイントの分だけ、無料でネット接続できるようになるわけだ。接続先は自由で、利用者はどのサイトにもアクセスできる。各国で順次サービスを展開し、足元では230万人の利用者を集めている。

YOYOホールディングスが運営するアプリ「ポップスライド」はインドネシアなど4カ国で利用者の支持を集めている
YOYOホールディングスが運営するアプリ「ポップスライド」はインドネシアなど4カ国で利用者の支持を集めている

 教育や生活に必須のサービスへのアクセスは無料にするべきなのかもしれないとしつつ、深田氏は「ネットの世界は理想的には今後も中立であるべき」と話す。通信会社に特別料金を支払える一部ネット大手の通信ばかりが優遇される世界では、YOYOホールディングスのようなスタートアップが成長するのがより難しくなると考えるからだ。

 では、ネットの中立性を保ちつつ、どうしたら多様なイノベーションを可能にしてきた環境を保ち、かつネット接続できる人々の裾野を世界的に拡大していけるのか。こうした複雑に絡み合う課題を解決できる新たな枠組みが求められている。

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