internet.orgが手がける接続アプリ「Free Basics」
internet.orgが手がける接続アプリ「Free Basics」

 インドを含めた新興国でスマホは急速に普及しているが、ネット接続については料金負担が重く、限定的にしか利用できないという消費者が多い。こうした人々に向けて無料でネット接続を提供しようとするFree Basicsの取り組みは歓迎されるにせよ、禁止される理由はないようにも思える。

 当時の欧米メディア各社の報道によれば、インド規制当局が禁止に踏み切ったのは、Free Basicsが通信を限定し、フェイスブックやBBC(英国放送協会)、一部ローカルのニュースサイトなど限られたサービスにのみ接続を許していたからだという。これはネット中立性を侵害する行為であり、利用者を特定サイトに囲い込む行為であると見られた。

 仮に、ある飲料メーカーが現地の物流業者や小売業者などと組み、自社製品を非営利目的で10万本なり100万本なり配布しても問題にはならないかもしれない。一方で、ネット企業が同じ目的で通信会社と組み、自社サービスを提供しようとすると中立性の原則が壁になってしまうわけだ。

中国勢、「中立性」の枠外で成長

 インド当局はFree Basicsの利用者が拡大することの弊害を危惧していた。フェイスブックにその気はなかったとしても、インド当局からすれば、Free Basicsはフェイスブックがインドネット市場を支配すべく送り込んだ尖兵に映ったのかもしれない。

 一般的にネット産業は「勝者総取り」傾向が強いと言われる。一部のネットサービスが消費者の大きな支持を集め、プラットフォーマーとして振る舞うようになると、他の競合サービスが生き残るのは難しくなる。フェイスブック、アマゾン、グーグル、アップルなど米ネット大手の事例を見ればそれは明らかだろう。

 皮肉なことに、米ネットの巨人に真っ向から立ち向かえるプレーヤーはネット中立性とは程遠い立場の国から現れた。騰訊控股(テンセント)やアリババ集団など中国勢だ。中国は欧米ネット大手の接続を制限し、巨大市場を内包する仮想の「箱庭」を国内に作りだすことで、巨大ネット企業を育てることに成功した。

 中国勢は国外進出を加速させており、昨秋にはテンセントが筆頭株主となっているネット通販大手、京東集団がタイに進出すると発表した。同社はここを拠点に東南アジア全域にサービスを広げていく考えだ。いずれ、こうした中国勢と米国勢とが世界各地で激しくぶつかる世界が訪れるだろう。

 ネット利用者は中立性の原則により、どんなサイトにも自由にアクセスできる。だが、そのアクセスは巨人サイトに集中し、彼らをさらに巨大化させる結果になっている。つまり中立性の原則があろうが、なかろうが、ネット接続の先にあるコンテンツ市場は、もはや一部のプレーヤーが権勢を振るう世界となりつつあると言えるかもしれない。

 

 それに中立であるべきとのコンセンサスが世界的に崩れてしまえば、インド当局がFree Basicsを規制したのに使った理論も成り立たなくなる。フェイスブックの影響力が拡大するのを問題視しなければ、彼らと組んで無料のネット環境整備を進めればいいし、逆に彼らを排除して、接続業者や国が他の都合のいいサイト、サービスへのアクセスを無料化し、一気に利用者の裾野を広げることもできる。

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