日本でインド人旅行客が少ない理由のひとつが、日本のビザ取得のための手続きが煩雑なことだ。チャンドラニさんは「日本はインド人のIT(情報技術)専門職を欲しがっており、就労ビザ申請は3日もあれば下りる。しかし、観光ビザを取る際には収入や日本での滞在スケジュールなどを証明する書類を揃えなければならず、大変。インド人が日本を訪れる大きな障害の1つがこの観光ビザの問題」と明かす。

インド人には日本食は「危険」

 インド人の日本訪問を妨げるさらに大きな理由がある。それは、日本における食事の問題だという。

 インド人の約半数は「ベジタリアン」だという。単純に計算すれば約7億人だから、インドは世界一の菜食主義者が集まる国と言えるかもしれない。

 例えばインド人の約80%を占めるヒンズー教徒は牛肉・豚肉を食することを避ける。ヒンズー教徒の場合、社会的地位が高い人や、カースト(社会身分制度)の位の高い者ほど、菜食主義傾向が強いという。

 また、ジャイナ教に至っては、厳格な不殺生の戒律が教義の要諦になっており、ニンジンやダイコンなどの根菜も口にしない。地下から掘り出す際に、小動物を殺してしまう恐れがあるからだ。ニンニクなどの香味野菜もダメ。「精がつく」などの理由による。

 「(多くのインド人は)食事を作る際、摂る際には入念に準備をする。それがライフスタイルとして定着している。それが旅先だとしても厳格に守り通す」(チャンドラニさん)

 国土交通省が発行している「多様な食文化・食習慣を有する外国人客への対応マニュアル」によれば、インド国内では食品のすべてに「ベジタリアン向け」(緑)、「ノンベジタリアン向け」(赤)を表すマークを付けることが義務づけられているという。

 だから、出汁など、見えないところで魚や肉類を使う日本料理は、「インド人にとっては大変危険で、とても手を出せる代物ではない」(同氏)という。仮にカレー店であっても、日本で出されるカレーは調理の過程や調味料に、肉のエキスが使用されている場合がある。

ベジタリアンを受け入れるために

 そこでチャンドラニさんは、インド人が安心して食べられる場所を、とインド料理店「スパイスマジック・カルカッタ」を東京・江戸川区にオープンさせた。ここは、在日インド人IT技術者やインド人旅行者らのコミュニティの拠点になっている。裏を返せば、菜食主義者が安心して過ごせる飲食店が、日本国内にあまり存在しないということなのだろう。

 インバウンド政策を推し進める政府は、ベジタリアンの訪日客にも門戸を開くためのマニュアルを作成してはいるが、受け入れ態勢が整っているとは言い難い。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催までの課題と言えるだろう。

 日本が真の観光立国に名乗りをあげるまで、まだまだ時間がかかりそうだ。

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