井阪社長が作る「セブン&アイ」を期待

 「井阪氏のセブン&アイ社長就任については確かにベストな選択肢ではなかったかもしれない。けれども当時の状況の中ではベターな決断だった」

 あるグループ関係者は一連の騒動の後、こう振り返った。昨年のグループの内紛のきっかけは、当時セブン-イレブン・ジャパンの社長だった井阪氏を、鈴木氏が更迭しようとしたことだったとされている(日経ビジネスが突き止めた真相については、書籍『鈴木敏文 孤高』を読んでもらいたい)。

 社外取締役やモノ言う株主、創業家など、多様なステークホルダーの思惑が複雑に絡み合い、結局、鈴木氏はセブン&アイのトップから退き、当初はセブン&アイ傘下の事業会社であるセブンイレブンの社長として適任かどうかが議論されていた井阪氏が、セブン&アイのトップを引き継ぐことになった。

 鈴木氏というあまりにも存在感のあるカリスマが去った後、巨大グループを引き継ぐのに「ベスト」の人材はおらず、その中でも井阪氏が「ベター」として決断が下された、というのだ。

 こういった経緯があったとはいえ、現在セブン&アイのトップに君臨するのは井阪社長その人である。鈴木氏が去ったからといって、大株主である伊藤家という別の「大きな存在」に依存するようでは危うい。世界17カ国・地域に6万店以上を展開する巨大流通グループを束ねるのは、井阪社長本人の役割だ。

 もちろん、セブン&アイにとって伊藤雅俊氏と鈴木氏の存在が圧倒的なものであることは、よく理解している。同社が世界有数の巨大流通グループになったのも、類いまれなる2人の経営者の存在があったからこそだ。

 であれば井阪社長は、2人が培った巨大な基盤の上に、井阪社長本人が生み出す新たなセブン&アイを打ち立てていくべきであろう。なすべきことは、鈴木氏派の排除や、伊藤家派の重用ではなく、井阪社長による、井阪社長のセブン&アイを生み出すことなのだ。

 井阪社長に新しいセブン&アイを生み出してもらいたい。そんな思いを込めて、日経ビジネスでは2017年の「次代を創る100人」の1人に井阪社長を取り上げた(詳細は日経ビジネス2016年12月19日号「次代を創る100人」)。

「次代を創る100人」の1人して日経ビジネスはセブン&アイの井阪隆一社長を選んだ(撮影:千倉 志野)

 伊藤雅俊氏と鈴木氏。2人のカリスマの背中は大きく、壁は高い。だがそれを乗り越え、「井阪社長のセブン&アイ」が実現できた時に初めて、井阪社長はセブン&アイのカリスマ経営者となり得るはずだ。伊藤氏とも、鈴木氏とも違う「井阪社長のセブン&アイ」を描き、形にすることができるのか。昨年の鈴木氏の退任劇は序章に過ぎない。同社にとって本当の正念場が始まっている。