2016年12月に日経ビジネスは1冊の書籍を上梓した。セブン&アイ・ホールディングスの名誉顧問となった鈴木敏文氏の半生を取り上げた『鈴木敏文 孤高』だ。

2016年12月に発売した『鈴木敏文 孤高

 鈴木氏がセブン&アイ(当時はイトーヨーカ堂)に入社したのが1963年のこと。本書では、鈴木氏がヨーカ堂に入社した経緯から、昨年の退任に至るまでの鈴木氏の半生をまとめている。2016年夏からは、10時間に及ぶ鈴木氏の単独インタビューも実施。鈴木氏本人に、一連の騒動や退任について胸中を明かしてもらったほか、半世紀以上にわたるセブン&アイでのビジネスパーソンとしての半生を振り返ってもらった。

 同時に、日経ビジネスではこれまで40年以上にわたって、ヨーカ堂や創業者の伊藤雅俊氏、鈴木氏への取材を重ねてきた。今ではほとんど報道陣の前に姿を現すことのない、セブン&アイ名誉会長でもある伊藤氏の素顔についても過去に深掘りしており、こうした過去のルポルタージュも、本書には収録した。詳細は、是非とも本書をお読みいただきたい。

 この書籍をまさに校了しようとしていた昨年12月9日、1本のニュースが流れた。鈴木氏の次男であり、セブン&アイ取締役だった康弘氏の退任である。

 2016年春まで、セブン&アイは鈴木氏の指揮の下、ネットとリアル店舗を融合させる新たな経営方針、オムニチャネル戦略を推進してきた。セブン&アイ内部でこの旗振り役となっていたのが康弘氏で、一時は鈴木氏はセブン&アイの後継者に、康弘氏を据えるのではないか、とも噂されていた(なお康弘氏への世襲について、鈴木氏本人は強く否定しているし、康弘氏も後継者となることを否定し続けてきた。詳細は「セブンのオムニ率いた鈴木康弘氏、退任を語る」をご覧いただきたい)。

 実はこの2日前の12月7日にも、セブン&アイはある人事を発表していた。セブン&アイ創業者である伊藤氏の次男・順朗氏を、取締役執行役員から取締役常務執行役員に昇進させるというものだ。

 2つのニュースを受け、校了間際の書籍の内容を慌てて修正しながらも、「やはりそうなったか」と感じ、抱いていた懸念が強まった。圧倒的なカリスマだった鈴木氏が去った後、セブン&アイはどこへ向かうのか。仮に新体制が、鈴木氏の去った後、別の「権威」に頼るようであれば、残念なことだと思っていたからだ。

 そして、こうした懸念を抱くきっかけとなったのが、昨年10月の記者会見だった。