Jリーグ放送の障害だった映像制作

 そう強く申し出たのは、日本テレビ放送網からスカイパーフェクト・コミュニケーションズ(現スカパーJSAT)に転じた田中晃氏だった。田中氏は現在、有料放送WOWOWの社長を務めている。

 だが、Jリーグの放送には高い壁があった。W杯や海外リーグの放送は契約先から送られてくる映像を流せばいいだけだが、Jリーグの場合、放映権を持つ企業が映像制作まで手掛けなければならない。地上波テレビ局と異なり、スポーツの映像制作ノウハウがないことがJリーグの放映権獲得に二の足を踏む大きな理由となっていた。

 田中氏には日テレで箱根駅伝の初代ディレクターを務めた経験がある。箱根駅伝をゼロから作り上げたノウハウをJリーグにも移植すれば、うまくいくと考えたが、日テレとスカパー!では事情が違った。

 「箱根駅伝方式で全国の地方局を集めて制作技術のクオリティコントロールに関する合宿を開いたが、『我々がどうして衛星放送の下請けにならないといけないんだ』という反発が強かった。でも地方局はスポーツ放送のスタッフを抱えていてもなかなか放送する枠がない。スカパー!の下請けに入れば、制作力は上がるし、売り上げも立てられる。そこに気づいてくれてからようやく彼らの意識が変わった」(小牧氏)

 当初、Jリーグ側からも「本当にできるんですか」と半信半疑で見られていたJリーグ放送だったが、試行錯誤の末、スカパーJSATは2006年シーズンにまずはJ2の全試合、翌シーズンからはJ1・J2全試合の放送を実現した。

観客動員数の増加が社員目標

 「結果としてJリーグが最も苦しかった時期に手を差し伸べたことになるが、我々にとってもメリットは小さくなかった」と小牧氏は振り返る。現に、2007年の本格放送の開始以降、スカパー!のJリーグ視聴サービスの契約者数は一度も前年同月の数字を下回ったことはなかったという。

 地道に視聴者数を増やしていった裏には、スカパー!の中長期的な視点に立った草の根の戦略があった。

 スカパーJSATでJリーグの放送を担当する「Jリーグ推進部」。そこに所属する社員十数人の業務目標のトップに据えられているのが、「担当するクラブチームのスタジアム観客動員数を増やすこと」。スカパー!のJリーグ視聴サービスの契約者数ではない。仮に契約者数を増やしても観客動員数が減れば、その社員の評価は下がることになる。

 だから担当社員はこまめにスタジアムに足を運び、クラブスタッフやサポーターたちと積極的に交流。様々なイベントを共同で企画し、Jリーグの盛り上げに力を注いだ。重視していたのは「ホームの試合はスタジアムで観戦し、アウェイの試合はスカパー!で見よう」というスタンスだ。

 「Jリーグが発展しなければスカパー!の未来はないと考えていた。我々には地道ながらも草の根の活動を続け、Jリーグを陰ながら支えてきたという誇りがある」。小牧氏の言葉からは強い自負がにじむ。

 だが昨年、そんな蜜月関係が突然、終わりを迎えることになった。きっかけはネット動画配信事業者の参入だった。

 ライブストリーミングサービス「DAZN(ダ・ゾーン)」を運営する英パフォームグループが、2017年から10年間のJリーグ全試合の放映権を獲得した。放映権料は10年間で約2100億円。スカパー!がこれまでに支払ってきた金額の4倍超に上る超大型契約だった。

 「スカパーJSATの年間利益と同じぐらいの金額。どひゃー、そりゃうちでは逆立ちしても出せないよという感じだった。どう計算しても採算が合わなかった」と小牧氏は天を仰ぐ。