これまでに同社とともに活動した地域おこし協力隊員は、累計で100人程度。現在も40人ほどが各地域で活動している。協力隊員の出自は多様だ。教員を辞め、教育を外側から変えるために協力隊員として高校の魅力向上に取り組む人。「市役所の中にいても地域を変えるのは無理だ」と考え、自治体を辞めて協力隊員となった人。米国の名門カリフォルニア大学バークレー校で学んだ後、地域活性化の理論を実地で活かしたいと協力隊員になった人もいる。

 「地域おこし協力隊員の多くは20代。共通するのは、成長意欲が高く、迷いながらも理想を追求したいという思いがあることだ」と佐々木氏は語る。そんな人材は自治体だけでなく、企業にとっても喉から手が出るほど欲しい存在。ファウンディングベースは地方の活性化を目指す企業であると同時に、一種の「人材業」でもある。

人材の「商社」ではなく「メーカー」に

 佐々木氏は宮城県石巻市の出身。リクルートで働き、同社の先輩と人材系の会社を立ち上げた経験もある。

 「600社ほどの企業の人々と話したが、欲しがる人材はどこも同じ。『結果がどうなるか分からなくても、周囲を巻き込んで新しいことに挑戦できる人』だ。そういう人を育てるプログラムが必要だと感じた」(佐々木氏)

 2011年の東日本大震災がファウンディングベース立ち上げの契機となった。地元でもある東北のために何かしたいと思っても、物資を車で届けるのが精一杯だった。世の中に本当に役立つ仕事とは何かを考え、地方の社会に貢献しながら人を育てる事業を構想した。

 「今の人材業界は、人のデータベースを作って企業へと送り込む『商社』のようなもの。自分たちは商社ではなく、人材そのものを育てる『メーカー』になりたいと考えた」(佐々木氏)

 もうひとりの共同代表である林賢司氏とともにファウンディングベースを設立し、津和野町を皮切りに事業を始めた。教育分野から取り組みを始めたが、そこだけに仕事を絞り込まず、現在は農業、林業、観光などにまたがって幅広く活動する。課題の全体像やつながりを理解しなければ地域は変わらず、協力隊員も育たないという考えだ。

地域おこし協力隊として津和野町に移住した瀬下翔太氏(右)。ファウンディングベースとともに地元高校の魅力向上に携わった経験から、任期後に現地でNPO法人を立ち上げ、高校生向けの「教育型下宿」を運営している。
地域おこし協力隊として津和野町に移住した瀬下翔太氏(右)。ファウンディングベースとともに地元高校の魅力向上に携わった経験から、任期後に現地でNPO法人を立ち上げ、高校生向けの「教育型下宿」を運営している。

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