1点を突き詰めて閾値を超えると、新たな世界が広がる――。これは何もビジネスだけのことではない。個人の知識や経験も、閾値を超えると、これまで見えなかったことが見えるようになる。

 筆者の場合はものを書く仕事を十数年続けているが、製造業の現場(主に工場)におけるカイゼン活動やムダとりを数多く取材してきたおかげで、別の領域の取材をする際にも独自の見方ができるようになったと感じている。プライム ナウの取材もそう。ネット通販の物流と工場の生産活動では全く異なる領域のように見えるが、「モノを運ぶ」という点では同じ。カイゼンの知識が活用できる。

 カイゼンの手法の一つに「カンバン」がある。カンバンは、アマゾンで言うところの「発注ボタン」のようなものだ。ある工場で、製品を完成させるのに2つの工程があったとしよう。工程2が工程1に「モノを作ってください」と発注する時、カンバン(札のようなもの)を工程2に渡す。これが発注ボタンの代わりになる。

 ポイントは、このカンバンをどのタイミングで渡すかにある。早すぎれば、工程1と2の間に仕掛かり品が溜まってムダになる。遅すぎれば、工程2で作るモノがなくなり、工程2の担当者にムダな時間(手待ち)が発生してしまう。仕掛かり品を最小限に抑えつつ、工程2の担当者に手待ちが発生しない絶妙なタイミングでカンバンを渡すには、いくつかの工夫が必要になる。

「小刻みに流す」とムダは省ける

 その代表的なものが「小ロット化」だ。生産ラインに流すモノのロットを、例えば10個から1個に小さくすること(1個流し)で、小刻みにモノが流れるようになり、仕掛かり品の量も手待ち時間も減らせる。プライム ナウがやっていることも基本的にはこれと同じだ。

 大きなトラックで一気に大量の商品を運ぼうとすると、配達までに長時間を要するだけでなく、いつどのタイミングで配達先に到着するかの見当をつけづらくなる。配達先が不在の場合は再配達も必要になり、ますます時間が読めなくなる。いつ到着するかが分からないので、自宅で待機しているユーザーにもムダな時間が生じる。

 一方、プライム ナウの1時間便は、ほぼ1件ずつ運ぶので配達時間を短くできる。到着時間の検討も付けやすく、ユーザーに手待ちが生じづらい。筆者にとってプライム ナウのサービスは、工場のカイゼン手法を配達に転用した事例のように見えた。

 もちろん、1時間便を達成するためにアマゾンは“小ロット配達”以外にも数々のカイゼンを実施している。それらについてはまた改めて記事にするが、今回の記事で強調したいのは、何か1点を突き詰めることで新たな価値を生み出すことが可能だということだ。アマゾンの場合はD(納期)だった。人材育成もしかり。何か一つ、長所を伸ばすことで、他の領域にも転用できる物の見方や知恵をつけることができる。

 新しい年を迎えた。改めて、自社(自分)だったらどこを突き詰めるかを考えてみるのもいいかもしれない。

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