日本政府とイスラエル政府は、2010年代に入って関係の緊密化に乗り出した。まず2014年5月にイスラエルのネタニヤフ首相が安倍首相を訪問し、サイバー攻撃に対する防御などについて、両国の治安当局が情報交換することで合意した。さらに2015年には、安倍首相とネタニヤフ首相がエルサレムで会談。ネタニヤフ首相は、「西欧にはイスラム化、反ユダヤの波が押し寄せている。このため我々は西欧の一部の国への依存を減らして、アジアへの進出を考えている」と述べ、アジア・シフトの姿勢を改めて強調した。

 日本の首相がイスラエルを訪問したのは、9年ぶり。この空白期間の長さは、我が国の政府がいかにイスラエルを軽視してきたかを物語る。

日本はイスラエルとパレスチナの橋渡し役になるべきだ

 読者の中には、「イスラエル経済やベンチャー企業だけに目を向けて、イスラエルとパレスチナの対立や、国連決議に反するイスラエルの入植地建設を無視してはならない」と考える人も多いだろう。筆者も同意見だ。これらの深刻な問題については、イスラエルとパレスチナ双方が受け入れられる解決策を見出さなければならない。

 日本政府には将来、イスラエルとの経済交流を深めることによって、パレスチナ紛争の調停役としても働いてほしい。経済的に重要な役割を演じるようになれば、パートナーに対して耳の痛いことも伝えられるはずだ。日本はイスラエル・パレスチナ双方に対して中立の立場にあるので、調停役としては理想的な国である。

 イスラエルでは保守的な知識階級の間にも、ヨルダン川西岸地区からの撤退と、イスラエルとパレスチナの分離を求める人々が現れている。日本もアジアの大国の1つとしての立場を自覚し、イスラエルへの働きかけを、中国だけに任せておくべきではない。さもないと、イスラエルは中国をアジアの代表と見なすだろう。

 中国のGDPはまもなく米国を追い抜いて世界一になる。議会制民主主義を持たない国が、世界最大の経済パワーになるのは、初めてのことだ。だが中国は基本的人権や三権分立、言論や思想の自由を保障する国ではない。日本はGDPで中国に水を開けられても、紛争調停などに関するソフトパワーを身につければ、世界で一目置かれる存在になるだろう。ドイツやスウェーデンは、これまでそうした役割を演じてきた。

 近年、安全保障をめぐる国際交渉の舞台で、中国がアジアの代表として前面に立ち、日本の姿がかすんでいる。たとえば、イランの核開発をめぐって2015年に行われた交渉に参加したのは、米国、ロシア、英国、フランス、ドイツと中国だった。日本の姿がかすんでいるのに対し、中国の国際社会での影響力は強まる一方だ。

 この流れに歯止めをかけるためにも、日本はイスラエルとの経済関係を深めるとともに、パレスチナ紛争の解決に向けて橋渡し役となるべく努力するべきだ。

参考資料=「イスラエルがすごい・マネーを呼ぶイノベーション大国」新潮新書 熊谷 徹著
まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。