イスラエルの「脱欧入亜」

 もちろんイスラエルにとって、地理的に近い欧州、さらに最大の支援国である米国との関係は重要だ。2017年の輸出入額の半分近くは、欧州との貿易による。

 またイスラエルは米国からの援助に大きく依存している。米国議会調査局のジェレミー・シャープ研究員が2016年12月に発表した報告書によると、米国が第二次世界大戦以降、2015年までにイスラエルに対して行った二国間援助の総額は、1274億ドルにのぼる。そのうちの63%が軍事援助だ。イスラエルほど多額の援助を米国から受け取った国は、世界のどこにもない。さらに両国が2016年に調印した覚書に基づき、イスラエルは2019年からの10年間に380億ドル(4兆1800億円)もの軍事援助を米国から受け取ることが決まっている。

 だがイスラエルは、欧州や米国に過度に依存するのを避けて、アジア、特に中国との関係を緊密化することによって外交関係の多角化を狙っている。イスラエルは特に、イスラエルの対パレスチナ政策に対する批判や、反ユダヤ主義がフランスなどを中心に高まったりする傾向について、懸念を強めている。これもイスラエルが「脱欧入亜」を目指す理由の一つだ。

日本が出遅れた理由

 さて日本とイスラエルの経済関係は、ドイツや中国に比べると、まだ低い水準にとどまっている。イスラエル中央統計局によると2017年の日本とイスラエルの貿易額(輸出額と輸入額の合計)は約29億ドルで、中国・イスラエルの貿易額(約98億ドル)の約3分の1にすぎない。

 日本銀行の国際収支統計によると、日本の対イスラエル直接投資額は2016年の時点で222億円。これは中国の投資額(1兆7600億円)のほぼ80分の1だ。

 なぜ日本企業はイスラエルへの進出が遅れたのか。理由の1つは、日本企業の「自社開発・調達主義」にある。新しい技術や製品を自社で開発することを目指し、他人の力を借りようとしない。欧米の企業は、他社からテクノロジーを調達するコストが、自社開発より安いとわかったら、その会社を買収して、技術と人材を調達することが多い。

 これに対し我が国の大企業は、今なお自前調達に固執する傾向が強い。日本企業が欧米企業ほど積極的に、イスラエルに拠点を構えて情報を収集しなかったのは、そのためだ。

 産油国に対する「忖度」も影響している。ごく最近まで日本の企業経営者たちの心の中には、サウジアラビアなどの産油国がイスラエルと取引をしないように求めた過去の記憶が残っていた。1970年代~80年代には、アラブ諸国と取引がある日本企業の多くが、アラブ諸国の機嫌を損なわないように、イスラエル企業との取引を避けていた。当時は、イスラエルのビジネスマンが日本企業に面会を求めても、門前払いされることがあった。それほどまでに日本企業は、アラブ諸国の恫喝を恐れていたのだ。

 だが、米国がシェールガス採掘を進める今日、産油国の影響力は20世紀に比べて大幅に減っている。「イスラエルと取引をすると、石油を売らないぞ」という恫喝は、もはや通用しない。

 日本企業がイスラエルを敬遠したもう一つの理由は、治安に関する懸念だ。日本人は今日でも先入観を抱いており、イスラエルと聞くと自爆テロや戦争が頻発する「危険な国」を思い浮かべる人が多い。これは、日本のメディアがイスラエルに関するニュースを伝える際、テロや局地紛争に関するニュースの比率が高いことが関係している。イスラエルが第2のシリコンバレーとして注目されているという切り口の報道は少なかった。

 だが新聞の短い記事やテレビの数分のニュースだけで、ある国の実情を把握することは難しい。イスラエルにテロや戦争の危険があるのは事実だが、イスラム過激派によるテロの危険があるのは、英国やフランス、ドイツも同じことだ。筆者は過去28年間に8回イスラエルを訪問しているが、危険な目に遭ったことは一度もない。筆者のイスラエル人の知人でテロや戦争のために死んだり怪我をしたりした人は1人もいない。もっともイスラエルの治安情勢は、兆候なしに突然悪化することがあるので、常に情報収集のアンテナを張り巡らせておく必要がある。

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