1991年にソ連が崩壊し、東西冷戦は西側の勝利に終わった。砲弾を一発も撃つことなく冷戦に勝ったNATOは、世界で最も輝かしい成功を収めた軍事同盟と呼ばれてきた。

 だが今やNATOに批判的な人物が、米国の次期大統領になろうとしている。67年に及ぶNATOの歴史で一度もなかった事態だ。トランプはNATOの存在意義に疑問を投げかけることで、共和・民主の両党が第二次世界大戦後、党派の壁を越えて守ってきたNATO支持の伝統と訣別した。NATOは、同盟のトップに立つ人物からのこのような「奇襲攻撃」を想定していなかった。盟主・米国の変節はNATOにとって、創設以来最大の危機である。

「欧州はコスト負担が不十分」

 トランプがNATOを批判する際の最大の焦点は、コスト負担である。彼は2016年9月に行なわれたテレビ討論の中で「NATO加盟28カ国の大半は、米国に比べると、応分のコスト負担を怠っている。私は、これを不満に思っている」と述べた。同氏はビジネスマンらしく、コスト・パフォーマンスを重視しているのだろう。トランプは、「NATO加盟国が他国に攻撃された場合、その国がNATOに対する貢献を十分に行っていない時には、米国はこの国の防衛に参加するべきではない」と発言したこともある。

 NATOでは、ある加盟国が他国から軍事攻撃を受けた場合、他の加盟国はこれを自国への攻撃と同等に見なし、反撃する義務を負う。この集団自衛の原則は、NATOの存在基盤である。だがトランプは、米大統領候補として初めて、この集団的自衛権に疑問を投げかけた。共和党の一部の議員たちは、「この発言はNATOを根底から揺るがしかねない」と考え、トランプを批判した。

 トランプ発言の背景にあるのは、米国とそれ以外のNATO加盟国の間に横たわる、防衛支出の大きな格差だ。

 米国は2015年に、GDP(国内総生産)の3.33%を防衛予算に充てた。これに対し、他の27カ国のうち、2%を超えているのは、ギリシャ(2.38%)、ポーランド(2.23%)英国(2.09%)、エストニア(2.07%)の4カ国だけ。このため米国はこれまでも、他のNATO加盟国に対し、防衛支出を少なくともGDPの2%に増やすよう求めてきた。

 たとえばドイツはEU最大の経済パワーだが、防衛支出の対GDP比率は1.19%と米国の要求にほど遠い。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、ドイツの2015年の防衛支出の絶対額は394億ドル(約3兆9794億円)で、英国やフランスよりも少ない。この額は、米国の約15分の1である。

 ストルテンベルグは、「米国が他国に防衛支出の増額を求めるのは、当然のことだ」と理解を示しながらも、「現在これらの国々も防衛支出を増やそうと努力しているところだ」と述べ、2%の目標達成までにはまだ時間がかかるという見方を打ち出した。

 いずれにせよトランプが2017年1月に大統領に就任すれば、防衛支出を大幅に増額して2%の目標値を一刻も早く達成するようNATOの他の加盟国に強く求めてくるのは確実だ。その圧力は、歴代の政権を上回るだろう。

図1 2015年の主要国の防衛支出
出所:SIPRI