NATOの演習に参加する東欧諸国の兵士たち(写真:熊谷 徹)

世界最大の軍事同盟を覆う憂鬱

 ブリュッセルの北東部に車を走らせると、世界最大の軍事同盟・北大西洋条約機構(NATO)の巨大な本部が目に飛び込んでくる。

 米国を盟主とするNATOは、ソ連の脅威に対抗するため1949年に創設された。その本部は当初ロンドン、そしてパリに置かれたが、1967年にブリュッセルに移転。約半世紀にわたり使用したブリュッセル本部の建物が老朽化したため、NATOは2010年、隣接した敷地に新しい本部ビルを建設する工事を開始した。この建物は今年ほぼ完成し、2017年初めに移転作業が始まる。

 旧本部は実用性だけを重視した、四角いコンクリートの箱を並べたような、地味な灰色の建物だった。これとは対照的に新しい本部ビルは、曲線とガラスの壁を多用し、近代的で軽快な印象を与える。

 NATOは、「新しいビルは、未来を念頭に置いてデザインされた。目まぐるしく変化するNATOの任務に対応するために、オフィス・スペースの柔軟性を重視し、最新の情報通信システムを導入した。1960年代には加盟国が15カ国だったが、今では28カ国と大幅に増えたので、新しいビルが必要になった」と説明している。

 約4000人が働く本部棟の総面積は25万4000平方メートル。6年間の建設工事にかかった費用は、11億ユーロ(約1320億円)にのぼる。

 NATOの事務総長イェンス・ストルテンベルグ(57歳)は、ノルウェー人。2014年からNATOの事務方トップの座にある。1993年にノルウェー議会の議員に当選して以来、23年にわたり政治家としての道を歩み、首相や財務大臣を務めたこともあるベテラン政治家だ。ストルテンベルグ、そしてNATOの職員たちにとって、2017年は、新しい本部棟での勤務を始める記念すべき年となるはずだった。

 だが最近、ストルテンベルグの表情は冴えない。こめかみに白髪が目立つストルテンベルグは、記者団の前でも時折中空に視線を泳がせ、不安に耐えているような顔つきを見せる。今ブリュッセルのNATO本部は、緊張した空気に包まれている。

NATOに批判的な初めての大統領

 その理由は、共和党の異端児ドナルド・トランプが大統領選挙に勝利し、第45代米大統領として2017年にホワイトハウス入りすることが決まったからだ。「アメリカ・ファースト」を旗印とするトランプは、選挙戦の期間中に、NATOに対する批判的な発言を繰り返した。NATOは、TPP(環太平洋経済連携協定)とともに、トランプが最も頻繁に槍玉に挙げる、国際的な枠組みとなった。

 NATOの最大の任務は、ソ連を頂点とする軍事同盟・ワルシャワ条約機構軍を抑止することだった。NATOは、圧倒的な地上兵力を持つワルシャワ条約機構軍が西欧に侵攻し、この攻勢を通常兵力で支えきれなくなった場合、米国の核兵器で反撃することになっていた。このため、NATOの軍事部門の最高司令官のポストには、必ず米軍の将軍か提督が就任する。