メルケル氏のレームダック化は不可避

 FDPの離脱によって、新政権を構成する作業は、振り出しに戻った。総選挙から8週間経っても、政権の輪郭すら見えない事態に、ドイツのメディアと有権者は呆然となっている。

 交渉決裂によって、残された道は議会で過半数を持たない少数与党政権か、再選挙しかない。今後はフランク・ヴァルター・シュタインマイヤー連邦大統領が政権樹立について、大きな責任を負うことになる。

 ドイツの憲法に相当する基本法によると、各党が連立政権の構成に失敗した場合、連邦大統領が首相候補を推薦し、連邦議会で首相選挙を行う。現状では連邦大統領がメルケル氏を首相候補に任命する可能性が高い。メルケル氏自身も、続投の姿勢を変えていない。

 メルケル氏がこの首相選挙で絶対過半数(議席の過半数)を獲得して当選した場合、少数与党政権を構成する権限を与えられる。投票を数回繰り返しても、メルケル氏が首相に推薦されてから14日以内に絶対過半数を取れない場合、単純過半数(投じられた票の過半数)を取れば少数与党政権の首相に任命される。メルケル氏が議会選挙で単純過半数も取れない場合、連邦大統領は議会を解散し、選挙をやり直すことになる。

 2015年の難民政策などが足かせとなり、メルケル氏に票を投じる議員が絶対過半数に達するかどうかは、微妙な情勢だ。同氏自身は、「少数与党政権よりも選挙のやり直しを求める」という姿勢を示している。少数与党政権は議会で過半数を持たないので、法案を可決させるにはいちいち野党と交渉しなくてはならない。これでは、効率的な政局運営は極めて困難になる。メルケル氏の指導力の大幅な低下は、不可避というべきだ。

AfDが得票率を伸ばす危険

 また再選挙も、この国の民主勢力にとって大きなリスクを秘めている。極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は、「連立交渉決裂は、メルケル時代の終わりを意味する」として、メルケル氏に対して「政治の混乱を招いた責任を取って、直ちに首相選への不出馬を表明せよ」と要求している。政権の樹立に失敗した伝統的政党に対する国民の苛立ちは大きい。再選挙を行った場合、CDU・CSUやSPDがさらに得票率を下げ、AfDに票を投じる有権者が増える可能性がある。

 さらに、各党の首相候補や政策マニフェストが大きく変わらない限り、再選挙を行っても、可能なオプションは、再びCDU・CSUとSPDの大連立政権か、CDU・CSUとFDP、緑の党による連立政権しかない。一度下野する方針を打ち出したSPDは、もはや政権参加を望まないかもしれない。その場合、9月末から現在まで行われた交渉が、再び繰り返される可能性がある。貴重な時間が空費されるばかりだ。

 2015年の難民危機に端を発した政局の混乱は、メルケル氏だけでなく他の伝統的政党にとっても、未曽有の試練となった。

 不透明感が強まる政局とは対照的に、現在ドイツ経済は絶好調だ。IFO経済研究所は、機械製造業などの輸出が順調であるため、今年のドイツの経常黒字は中国を追い抜いて世界一になると予想している。また今年のGDP成長率は、当初の予想値を上回って、2%を超えると見られている。

  メディアは、出直し選挙の時期について、来年の2月か3月になるという見方を打ち出している。それまでメルケル氏は首相の座に残るが、内政・外政に関する重要な決定は新政権が生まれるまで、先延ばしにされる。つまりドイツの政治の空白が異例の長さになる可能性がある。

 ドイツの経済界では、政治の空白の長期化が、好景気に及ぼす悪影響について懸念が広がり始めている。政治の混乱は、AfDのような過激勢力を利するばかりだ。

 ドイツに住む一市民として、一刻も早く政局が安定することを望んでいる。

(続く)