オックスフォード大学のカール・ベネディクト・フレイ研究員とマイケル・A・オズボーン研究員は、2013年に発表した「雇用の将来(The Future of Employment)」という研究報告書の中で「今後20年以内に、米国の就業者の47%が、自動化とデジタル化によって仕事を失う可能性がある」と述べている。

 フレイらによると、電話セールスを行っている社員や、工場で機械を操作する労働者、秘書、税理士の助手、保険会社の損害査定員、不動産仲介業者、ホテルの事務員、窓口で働く銀行員などは、機械によって代替される可能性が高い。

 また2015年4月に、フォルクスワーゲン(VW)で人事・労務を担当していたホルスト・ノイマン取締役は、「VWのドイツの工場では10万7000人が働いている。このうち50%は溶接や車体の組み立てなど、身体に大きな負担をかける労働に就いている。今後20年間で、ロボットがこのような肉体労働を完全に代替する」と述べ、工員の半数にとって仕事がなくなるという見方を打ち出した。ノイマン氏は、単純な肉体労働を「menschenunwürdig(人間にふさわしくない)」と呼び、この変化を「機械が人間をきつい仕事から解放する」と肯定的にとらえている。

 VWでは、インゴルシュタット、ザルツギッターなどの工場ですでに実験を開始している。ただしノイマン氏によると、同社は工員の数を能動的に減らそうとしているわけではない。工員たちの年齢が将来高まることによって、腰や背中に負担がかかる肉体労働をさせることは難しくなる。VWはそうした領域に、人間ではなくロボットを投入しようとしているのだ。

 ノイマン氏は、「当社にとってインダストリー4・0の最大の目標は、品質の向上、生産の柔軟化、コストの削減、生産工程における安定度の強化、そして労働環境の改善だ」と語る。

 とはいうものの、ロボットの最大の魅力は人件費削減だ。現在ドイツのVWの工場では、労働者1人あたりの費用は、30~50ユーロ(約3900円~6500円)。だがロボットを使えば、1時間あたりのコストは3.2~6.2ユーロ(約416円~806円)で済む。1時間あたりの労働コストを約9分の1に減らすことができるかもしれないのだ。労働コストが高いドイツの企業にとって、インダストリー4.0の大きな利点の一つが人件費の削減であることは、火を見るよりも明らかだ。

職業教育の重要性

 ドイツ工学アカデミーのヘンニヒ・カガーマン会長は、「インダストリー4.0は工場を無人化するためのプロジェクトではない。労働者は肉体労働から解放され、より創造的な仕事を行うようになる」と説明する。カガーマン氏は「かつて欧米企業のオフィスには、手紙や議事録をタイプライターで清書するタイピストがいた。パソコンの普及でタイピストの仕事はなくなったが、彼らが全員失業したわけではない。彼らの大半は職業研修を受けて、別の技能を身につけ、同じ企業で働き続けたのだ」と語る。カガーマン氏は、インダストリー4.0においても職業研修や再教育が極めて重要になると主張する。

 PI4は、この点においても重要な役割を演じている。PI4の第5作業部会は、雇用と職業教育を担当しており、ドイツ最大の産業別労働組合であるIGメタル(全金属産業労組)の代表が座長を務めている。