2019年予算案審議が焦点

 だが発言内容が事実かどうかは、サルビーニ氏にとって二の次である。事実に基づかないセンセーショナルな主張を繰り返し行うことによって、世論を誘導するのはポピュリストが得意とする戦法だ。夏休み明けの9月から、サルビーニ氏はジェノバ事故を引き合いに出して、EUが進める“圧制”によってイタリア人たちがいかに苦しんでいるかを国民に訴え、緊縮策を拒否するためのキャンペーンを開始するだろう。

 具体的には、ポピュリスト政権がイタリア議会に9月に提出する2019年度の予算案が焦点となる。同国は議会が予算案を承認した後、それをEUに提出しなくてはならない。イタリア政府がEUの緊縮策を拒絶し、選挙期間中に公約した通り財政出動のための予算を盛り込んだ場合、EUとの対立はエスカレートする。その場合、イタリア国債の利回り(リスクプレミアム)が高騰し、イタリアは国債市場でカネを借りることが困難になる。2009年に表面化したギリシャの債務危機の再燃である。

 欧州の投資家の間では、イタリアの動向に対する懸念がすでに強まっている。同国の10年物国債の利回りは今年5月には1.7%前後だった。これが、ポピュリスト政権が成立した6月には一気に3.1%に上昇し、8月17日の時点でも3%台を上回る水準で推移している。国債の利回りが高いということは投資家が警戒感を強めていることを意味し、イタリア政府は借金をするために高い利率を払わなくてはならなくなる。

ユーロ危機の天王山はイタリア

 ギリシャは8月20日、欧州中央銀行などによる救済プログラムから8年ぶりに離脱した。同国の破綻を防ぐために欧州安定メカニズム(ESM)や国際通貨基金(IMF)などが同国に供与した融資の総額は2780億ユーロ(約36兆円)にのぼる。さらに、過去にギリシャ政府にカネを貸していた債権者たちは2012年、同国を債務危機から救うため、EUの求めに応じて1780億ユーロ(約23兆円)もの債務を減免した。いわゆるヘアカットである。

 これに対してイタリアの累積公的債務残高は、ギリシャの約7倍に及ぶ規模だ。イタリアに対するヘアカットが、投資家たちに与える痛みは、ギリシャの比ではない。つまりEU第4位の経済大国イタリアの債務危機は、ギリシャとは比べ物にならないほど深刻化する懸念がある。

 筆者は2011年11月の本コラムで「ギリシャの債務危機はまだ序曲であり、本編はイタリア」と書いた。イタリアにポピュリスト政権が誕生したことで、残念ながらこのシナリオが現実化する可能性が強まっている。

 ヨーロッパで最も記事の水準が高く硬派のクオリティーペーパーの1つであるスイスの日刊紙「ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング」のペーター・フィッシャー経済部長は、「イタリア新政権の主張は、ギリシャ政府の主張にそっくりだ。EUは秩序だった国家破産のための準備をいまだに始めていないが、なるべく早く手だてを取るべきだ。今年ヨーロッパは『暑い秋』を経験するかもしれない」と警鐘を鳴らしている。この秋は、イタリア情勢から目が離せない。