交通インフラの老朽化が深刻

 高速道路(アウトストラーダ)はイタリア人の誇りだった。彼らは世界で初めて、全ての市民が利用できる長距離の高速道路を建設した。1924年に開通した、ミラノとバレーゼを結ぶ全長約60キロのアウトストラーダである。ドイツはベルリンにAVUSと呼ばれる高速道路を1921年に開設しているが、全長は8キロにすぎなかった。AVUSは当初、主にスピード競技や車の走行試験に使われ、全ての市民が使える道路ではなかった。

 それだけに今回の事故は、イタリア人たちの誇りを深く傷つけた。イタリアの日刊紙「ラ・レプブリッカ」は、「イタリアには老朽化が進んだ橋やトンネルが約300カ所ある」と報じている。筆者は過去28年間に約20回、車でイタリアに旅行している。確かにイタリアの高速道路は、ドイツやオーストリアに比べると、路面の状態が悪く走りにくい区間が多い。特に南部カラブリア地方の高速道路では、路面の白線がかすれて見えなくなっている個所もあった。多くのドライバーが車線を守らず、好き勝手に走っていた。割高の通行料金を取るにもかかわらず、高速道路の状態が劣悪であることに筆者も不満を抱いた。交通インフラの老朽化は、イタリア経済の疲弊を象徴している。

若者の3人に1人が失業者

 イタリアは「ヨーロッパの病人」と呼ばれる。長年にわたり政界の腐敗と経済停滞が深刻化しているからだ。2017年のイタリアの累積公的債務残高は2兆2631億ユーロ(約294兆円)とEU(欧州連合)で最大。公的債務残高の国内総生産(GDP)に対する比率は131.8%とギリシャ(178.6%)に次いでEUで2番目に高い。ユーロ圏加盟国は、公的債務残高比率を60%未満に抑えることを義務付けられている。イタリアにとってこの実現は夢のまた夢だ。2017年のイタリアの経済成長率は1.5%で、EU平均(2.4%)よりも大幅に低い。

 25歳未満のイタリア人のほぼ3人に1人が、失業している。同国の若者の失業率はギリシャ、スペインに次いでEUで3番目に高い。好景気に沸くドイツの若年失業率は、イタリアの約5分の1だ。下のグラフは、ヨーロッパの北部と南部の間に経済格差が今も残っていることをはっきり示している。この格差は、債務危機とポピュリズム躍進の温床である。

25歳未満の市民の失業率(2018年6月時点)
<span class="textColNavy"><span class="fontSizeL">25歳未満の市民の失業率</span></span>(2018年6月時点)
*:2018年4月の数字
出所:欧州連合統計局
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右派・左派ポピュリストが連立政権を樹立

 国民不在の密室政治と伝統的政党に対する不満が有権者の間で強まり、今年3月の総選挙で左派ポピュリスト勢力「五つ星運動」と右派ポピュリスト政党「同盟」が圧勝し、6月1日に連立政権を樹立した。首相のジュゼッペ・コンテ氏は無党派だが政治的な立場は「五つ星運動」に近い。「五つ星運動」の筆頭首相候補だったルイジ・ディ・マイオ氏と「同盟」のマッテオ・サルビーニ書記長が共同で副首相の座に就いた。マイオ氏は経済発展・労働社会保障大臣、サルビーニ氏は内務大臣を兼任している。権力を握った左派・右派のポピュリストたちはこの政権を「イタリアに変化をもたらす政府」と呼んでいる。

 五つ星運動は、環境保護やインターネットに関する自由を要求する比較的リベラルな勢力だ。これに対し同盟のサルビーニ氏は、「列車の中でイタリア人と移民の座席を別々にするべきだ」と言ったこともある排外主義者、人種差別主義者で、フランス、ドイツ、ギリシャの極右政党に近い人物。一見、この2つのポピュリスト勢力は相容れない存在に見える。

EUに対する不満がポピュリストを政権に就けた

 彼らを結束させて連立政権を樹立させたのは、これまでの政治に対する不満と反EU路線だ。EUと欧州中央銀行は、「EUで第4位の経済規模を持つイタリアが、GDPを大幅に上回る公的債務を抱えユーロ圏の加盟基準に違反し続けているのは、深刻な事態だ」と考えて、同国政府に対し歳出の削減や産業構造の改革による成長力の回復を求めている。

 これに対し、イタリアのポピュリスト政権はEUが要求する緊縮策に真っ向から反対している。

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