
ドイツ首相のメルケルが、シリア難民ら約100万人を受け入れる決断を昨年9月に下してから、まもなく1年が経つ。現在ドイツに到着する難民の数は、昨夏に比べて大幅に少なくなっている。その理由は、セルビア、マケドニアなどのバルカン諸国が国境を封鎖したほか、EUに不法入国した難民の送還と受け入れにトルコが合意したためだ。
だが現在、難民危機を解決するカギを握るトルコとEUの関係は、急速に悪化している。トルコとEUが交わした難民合意は、風前の灯といっても過言ではない。
クーデター未遂と弾圧の嵐
両者の対立を決定的にしたのは、今年7月15~16日にかけてトルコで発生したクーデター未遂事件である。クーデターの鎮圧に成功したエルドアン大統領は、「米国に亡命している宗教指導者フェトフッラー・ギュレンが、政権転覆を図った」として、ギュレンのイスラム運動に加わっていると見なした軍人や公務員の大量逮捕に乗り出した。

エルドアンが3ヶ月間に及ぶ戒厳令を7月20日に発布して以来、同国では弾圧の嵐が吹き荒れている。政府は逮捕者数を公式に発表してはいないが、ドイツでは「7月末時点までに約1万3000人が逮捕された」という情報が流れている(ドイツにはトルコ人が約150万人、ドイツ国籍を取ったトルコ系住民が約280万人住んでいるので、トルコについての情報が豊富にある)。
逮捕者の中には、約8300人の軍関係者、約2100人の裁判官・検察官、約1500人の警察官などが含まれている。さらに教育省の職員約1万5000人、民間の教育機関の教員約2万1000人が解雇された。またエルドアン政権は7月末に約90人のジャーナリストを逮捕した他、24の放送局からテレビ・ラジオ番組の放送権を剥奪した。また政府は、「ギュレンと繋がりがある」という口実で、約2300ヵ所の教育機関、病院などを閉鎖した。
クーデターが鎮圧された後に逮捕された軍関係者の中には、顔が赤く腫れ上がっている者がいた。殴られた痕跡であることは、明白だ。一部の逮捕者は拷問を受けている可能性が高い。
多くのドイツ人は、トルコ政府の弾圧の激しさに唖然としている。ドイツのメディアからは「エルドアンは、クーデター未遂を口実として、自分に反対する勢力を社会の要職から一掃しようとしている。トルコは、法治主義からますます遠ざかりつつある」という指摘が出ている。メルケルも「クーデターの首謀者たちが裁きを受けるのはやむを得ない。しかしトルコ政府の対応は非常に厳しい」と述べ、エルドアン政権による過度な弾圧を間接的に戒めている。
「EU加盟を巡るトルコとの交渉を中止せよ」
トルコはEUへの加盟をめざしている。死刑制度がある国はEUに入ることができないため、トルコは2004年に死刑を廃止した。だがエルドアンはクーデターを鎮圧した後「議会が死刑の復活を決めれば、私は承認する」と繰り返し発言している。EU加盟国からは、「もしもトルコが死刑を復活した場合、EU加盟交渉は中止するべきだ」という声が高まっている。
Powered by リゾーム?