つまり彼らは機微な製造ノウハウに依存する度合いが高いので、そのような重要なノウハウをデジタル・プラットフォーム上で売ることについて、尻込みしてしまうのだ。

 また、デジタル・プラットフォームを運営する企業の半数以上が米国企業であり、欧州企業の数がまだ少ないことも、ドイツの中小企業にとっては懸念材料である。個人データ保護に関する米国の規定は、欧州に比べるとはるかに緩い。米国の国家安全保障局(NSA)の元職員だったエドワード・スノーデン氏は、「米国の一部のIT企業が諜報機関にデータを提供していた」と主張している。

政府が中小企業を強力に支援

 だがデジタル・サミットの会場でメルケル氏は、中小企業に対して「外国の競争相手は、眠っていない。我々はビッグデータやデジタル・プラットフォームを活用することに逡巡してはならない」というメッセージを送った。同氏は、「中小企業がこのチャンスを能動的に生かさないと、我々の価値創出プロセスが、デジタル・プラットフォームの運営企業によって浸食される危険がある」と警告した。

 ドイツの中小企業は、ミッテルシュタントと呼ばれる。ドイツ企業の約99%はこうした中小企業で、ドイツ製造業界の屋台骨でもある。彼らの多くは家族企業だ。ドイツ政府はミッテルシュタントを極めて重視し、研究開発費を助成するなどして積極的に支援している。多くの市民がミッテルシュタントで働いているため、政治家にとって無視できない票田でもある。メルケル氏が演説の中で、中小企業について繰り返し言及したのは、そのためだ。

 ドイツ政府が2011年以来、インダストリー4.0を政府主導のプロジェクトとして進めている理由の1つは、大企業に比べて資本力や情報収集力に劣るミッテルシュタントが、デジタル化の流れの中で取り残されないようにするためである。

 ミッテルシュタントがインダストリー4.0を受け入れて、実行に移すかどうかは、この国家プロジェクトの成否を左右するカギだ。ドイツ工学アカデミーの会員でもあるミュンヘン工科大学のクラウス・マインツァー教授は、「インダストリー4.0は国が主体となりトップ・ダウン方式で始めたが、この上からの改革をミッテルシュタントにどう実行させるかが、大きな問題である。もしもミッテルシュタントが参加しなかったら、インダストリー4.0は成功しない」と断言する。(続く)