メルケル氏の言葉は、意味深長だ。「ビッグデータの活用は、メーカーと顧客の関係を根本的に変える。我々は、ビッグデータを活用することで、全く新しい価値を創出するプロセスが生まれることを、常に念頭に置くべきだ。特に中小企業は、この新しい価値創出のプロセスを迅速かつ集中的に利用しなくてはならない」

 メルケル氏が演説の中で、「根本的に変わるかもしれない」などの婉曲的表現ではなく、「根本的に変える」とか「利用しなくてはならない」という断定調の言葉を使っていることに、政府が抱く切迫感が感じられる。

 メルケル氏が指摘する「新しい価値創出のプロセス」とは、何か。その一例が、デジタル・プラットフォームを使った製品製造ノウハウの販売である。連邦政府の諮問機関ドイツ工学アカデミーのヘンニヒ・カガーマン会長は、「ドイツのメーカーは将来、単に製品を輸出したり、外国の工場で組み立てたりするだけではなく、製品や部品に関する製造ノウハウを、デジタル・プラットフォーム上で販売するようになる」と述べる。

 たとえば、マレーシアのメーカーが、ドイツの部品会社が製造するある特殊な部品を緊急に購入する必要に迫られたとしよう。マレーシアのメーカーはデジタル・プラットフォームにアクセスし、料金を払って部品の製造ノウハウに関するソフトウエアをダウンロードする。そしてソフトウエアを、部品の素材があるマレーシアの工場へ持ち込んで、3Dプリンターで“プリントアウト”する。こうすれば、従来1週間かかっていた部品の調達が、数時間で可能になる。こうした販売方法を取れば、ドイツの人件費が東欧や東南アジアに比べて高くても、大きな問題にはならない。製品の輸出や、外国での現地生産も不要になる。

 さらにドイツの部品会社は、世界中で販売した製品や部品の使用状況についてのデータを、デジタル・プラットフォームを通じてリアルタイムで入手できるかもしれない。それも、本社にいながらだ。顧客が保有する、自社部品に関する需要や購入時期に関するデータを分析することによって、部品会社は新しいサービスや製品を能動的に提供することが可能になる。