欧米とロシアが対峙する「最前線」

 エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国は、欧米諸国とロシアとの間の軍事的な緊張が、世界でいま最も高まっている地域だ。これら3カ国は、1990年にソ連から独立した後、2004年にNATOとEUに加盟した。人口約130万人の小国エストニア、人口約190万人のラトビアは、ロシアと国境を接している。また人口約280万人のリトアニアは、カリーニングラード周辺にあるロシアの飛び地、およびロシアの友好国べラルーシに隣接している。

 カリーニングラードは、ロシア領の最西端に位置し、同国にとって最も重要な軍事拠点の一つである。かつてこの町は、ナチスドイツ領の東プロシアにあり、ケーニヒスベルクと呼ばれた。連合国が1945年に行ったポツダム会談で、ケーニヒスベルク周辺の地域は、ソ連領の飛び地とすることが決まった。ソ連にとって、バルト海に面し、冬にも凍らないカリーニングラードの港は、大きな魅力だった。

ロシア国境から約1キロの地点。手前はリトアニア領。クルシュー・ラグーン(淡水の湾)に突き出た砂州は、ロシア領。この砂州の彼方には、カリーニングラードがある。(熊谷 徹撮影)

 ポーランドとバルト3国がNATOに加盟した今、ロシアにとってカリーニングラードは、NATOの領土に楔のように食い込んだ「橋頭保」として、重要な役割を持つことになった。

 ロシア軍は、カリーニングラード周辺に約22万5000人もの兵力を集結させている。地上部隊は、約800両の戦車、約1200両の装甲兵員輸送車、約350門の火砲を保有する。つまりバルト3国とポーランドは、約10個師団のロシア軍部隊と隣り合っているわけだ。これらの数字は、2014年に西側軍事筋が推定したものなので、現在はさらに増えている可能性がある。

 またロシアは、カリーニングラード周辺にSA400型対空ミサイルを配置したほか、核弾頭を装備できる短距離ミサイル「イスカンダル」も配備している。さらにカリーニングラードに近いバルティスク港は、ロシア海軍のバルチック艦隊の母港である。

 1989年まで続いた冷戦の時代には、NATO軍とワルシャワ条約機構軍は、東西ドイツ国境で向かい合っていた。今日では、バルト3国とポーランド北東部の地域が、冷戦時のドイツに相当する「最前線」なのだ。

カリーニングラードの脅威

 バルト3国は、いずれも小国であり、独力で国土を守ることは難しい。予備役を除いた各国の正規軍の兵力は、リトアニアが1万7000人、ラトビア4600人、エストニア6400人にすぎない。

 特に欧米諸国を懸念させているのが、バルト3国とポーランドを結ぶ地域が、きわめて細くなっているという地理的条件だ。

 カリーニングラード周辺のロシアの飛び地の東端と、ロシアの友好国ベラルーシの西端との間の距離は、わずか100キロメートル。ロシア軍がカリーニングラードから戦車部隊をベラルーシまで走らせれば、数時間でバルト3国をポーランドから切り離すことが可能になる。

 NATOは、この100キロメートルの地峡部を「スバルキ・ギャップ」と呼ぶ。スバルキは、この地峡部のすぐ南にある村の名前だ。NATOは、「ロシアがバルト3国の占領を試みるとしたら、まずスバルキ・ギャップを占領して、欧米諸国がポーランドからバルト3国に地上兵力を増派するのを妨害しようとする」と予想している。スバルキ・ギャップは、NATOのバルト3国防衛の上で最大のアキレス腱である。