もしも米国が共同歩調を乱したら、それはNATOの大幅な弱体化につながる。メルケル氏らはトランプ氏が夜中に発信したツイッターのつぶやきから、彼が前日に行った共同声明への同意を再び撤回する危険があると判断し、7月12日に緊急首脳会議を開くことをストルテンベルグ事務総長に要請した。この会議は当初全く予定されていなかったものだ。この日午前に予定されていたジョージアとウクライナの大統領との会議は、後回しにされた。これらの変更は、メルケル氏ら他国首脳の危機感がいかに大きかったかを物語っている。

 この会議でメルケル氏ら各国首脳は「防衛支出の追加額をこれまで予定していた額よりも増やし、これまでを上回るスピードでGDP比2%ラインに近づける」ことを約束した。この会議の後、記者団の質問に答えたストルテンベルグ事務総長は、「各国はトランプ氏の大統領就任時に比べて、防衛支出を410億ドル増やすことを約束した。これは米国の負担を減らすことにつながる」と述べ、「NATOの結束は強まった」と強調した。

 トランプ氏も会議の後「議場にいた全ての加盟国が防衛費追加の額とテンポを大幅に増やすことを約束した。NATO首脳会議は大成功だった。私が大統領に就任して以来、各国の防衛支出は数十億ドルも増加した。すばらしい!」と自画自賛している。

「トランプ氏の操り人形」

 これに対しドイツの論壇では「トランプ氏は他の国々をまるで手下であるかのように扱った」という強い不満の声が広がっている。NATO加盟国のある参加者はドイツの新聞記者に「トランプ氏は我々をまるで操り人形であるかのように踊らせた。こんなことは一度も経験したことがない」と語っている。この言葉にはトランプ氏の一挙一動に翻弄される欧州諸国の苛立ちと不満が込められている。

 ドイツ外務省の次官を務め、現在はミュンヘン安全保障会議の主催者であるヴォルフガング・イッシンガー氏は、「トランプ氏はマフィアのようなやり方で、首脳会議の行方を操った。欧州諸国はこの経験を教訓として、多国間関係を重視しなくなった米国と今後どう付き合っていくかについて、じっくりと考えなくてはならない」と語った。同盟国の元外務次官が米国大統領の挙動を暴力団にたとえる。これは、オバマ政権の時代までは想像もできなかったことである。

 トランプ氏とEU諸国の対立は、まだ始まったばかりだ。同氏は、自動車輸出などドイツが痛みを伴う分野での圧力を強めていくだろう。11月の中間選挙へ向けて、彼のドイツ・バッシングが一段と強まる恐れがある。欧州諸国は安全保障や貿易に関して、米国への依存度を減らそうとする動きを今後加速するに違いない。しかし米国依存度がこれまで高かったために、「脱米」のプロセスにはかなりの歳月がかかるだろう。世界が「ポピュリスト帝国主義」の暗雲から抜け出す道は、当分見つかりそうにない。