NATO首脳会議の大混乱

 メルケル氏の反論はトランプ氏の怒りを抑える役には立たず、NATO首脳会議は防衛支出をめぐって大混乱に陥った。まず初日の会議でトランプ氏が2%の目標を満たしているのが米国など5カ国に過ぎず、ドイツなど他の23の加盟国がこの目標に達していないことについて怒りを爆発させた。彼は「この目標値を2%ではなく、4%にするべきだ」とか「防衛費の対GDP比を2%にする時期が2024年では遅すぎる」と言い出した。

 だが他の加盟国首脳はトランプ氏を説得して、「加盟国は2014年のウエールズでの首脳会議で設定した目標を順守する」という内容の共同声明について合意した。

 ところがメルケル首相らは翌朝になって、トランプ氏が再びツイッターを通じて他国に対する不満を世界中に発信していたことに気がついた。彼(もしくは彼の側近)は、ツイッターのつぶやきを打ち続けた。その矛先は、またもやドイツに向けられていた。

 「ドイツがロシアに対しエネルギーとガスのために数10億ドルも払っているとしたら、NATOには何の意味があるのだ? なぜ28カ国のうち、5カ国しか防衛費の対GDP比率の目標を守っていないのだ? 米国は欧州の防衛のために費用を負担しているのに、貿易では何10億ドルも損をしている。他の加盟国は、2%の目標を2025年までではなく、すぐに達成するべきだ」

 「欧州諸国は、昨年私が欧州を訪れた時の要請に応えて、防衛費を数十億ドル追加してきた。だが彼らの追加支出は不十分だ。米国は彼らのためにカネを使い過ぎている。欧州の国境は悪い(筆者注・原文はEurope’s borders are BAD! トランプ氏が何を言いたいのか不明だ。BorderではなくLeaderと言いたかったのだろうか。彼のツイッターの質の低さを示す例文としてあえて引用した)。ロシアとのパイプラインのために巨額のカネを使うのは受け入れられない」

 「米国の歴代の大統領たちは、ドイツや他の裕福な欧州諸国の指導者に対して、ロシアに対抗するため防衛支出を増やすように要求してきた。だが欧州諸国は、負担すべき防衛費のほんの一部しか払っていない。米国は欧州を支えるために何十億ドルものカネを払っており、貿易では大損害を受けている」

 「ドイツはロシアから自国を守りたいと思っている。しかしドイツは今やロシアにカネを払い始めた。ドイツは新しくパイプラインを建設することによって、ロシアからのエネルギーのために数10億ドルの金を払おうとしている。これは受け入れられない! 全てのNATO加盟国は防衛費の対GDP比を2%ではなく、4%にしなくてはならない!」

 これらのつぶやきはNATO幹部や欧州諸国首脳を戦慄させた。彼らの頭の中には、トランプ氏が6月上旬にカナダで開かれたG7サミットで、共同声明への同意を会議の後に撤回した記憶が生々しく残っていた。さらにこの朝NATO本部では、「トランプ氏が『米国に独自の道を歩ませる』と吹聴していた」という不吉な噂も流れていた。

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