ロシア・ゲートをめぐり発言を訂正

 記者会見で圧巻だったのは、ロシアが2016年の米国大統領選挙に介入した疑惑をめぐるやりとりだった。米国ではトランプ氏の立場が日一日と苦しくなりつつある。捜査当局は、ロシアの諜報機関がサイバー攻撃によってトランプ氏の対立候補であるヒラリー・クリントン氏の支持率を下げるための工作を実施し、選挙結果を操作したという疑いを強めている。

 トランプ氏は「ロシアの介入は私の勝利に影響を与えていない」と主張してきた。だが7月13日に米国の特別検察官はロシアの諜報機関員12人を起訴し、「ロシアの諜報機関は民主党本部のサーバーへの侵入を試みたり、民主党の内部文書を外部に漏らしたりすることで、クリントン氏を不利な立場に陥れようとしていた」と指摘した。つまりロシアの諜報機関が大統領選挙の結果に影響を与えたという疑惑が一段と深まった。今年11月に予定される中間選挙で共和党の勝利を目指すトランプ氏にとって、不利な事態である。

 トランプ氏はこの問題についてプーチン氏との首脳会談で議論したことを明らかにした。一方、プーチン氏は記者会見で「ロシアが米国の大統領選挙に介入したことは一切ない」と疑惑を打ち消した。するとトランプ氏は「プーチン大統領は今日極めて力強く疑惑を否定した(President Putin was extremely strong and powerful in his denial today)」と強調した上で、「プーチン氏は、特別検察官が起訴した12人の諜報機関員の捜査のために、ロシア側の捜査官を協力させる準備があると言ってくれた。これは信じられないくらい素晴らしい提案だ」と相手をほめるかのような言葉も発した。

 もしもロシアの捜査官を米国の捜査に参加させた場合、機微な捜査情報がロシア側に漏れたり、ロシア側が容疑者や証人に圧力をかけたりする可能性がある。特別検察官が「違法行為を行ったと見ている国」の捜査官をこの重要な疑惑の捜査に参加させるわけがない。さらに、特別検察官が進める捜査についてトランプ氏は「米ロ関係に暗雲を投げかけ、我が国を貶める行為」と改めて批判した。

 ドイツの保守系日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)で外交問題を担当するクラウス・ディーター・フランケンベルガー記者は、7月17日付の第1面に掲載した社説で「トランプ氏は、自国の捜査当局よりもロシアの権力者の言葉を信じている。これはグロテスクだ」と論評した。そして「トランプ氏はプーチン氏の前でロシアの大国としての地位を承認して見せたようなものだ。もはや米国を西側社会の指導者と見ることは難しい」と厳しい批判の言葉を浴びせた。

 さらにトランプ氏は記者団の質問に答えて「(米国大統領選への介入を)ロシアがやったと信じる理由はないと思う」と答えていた。しかし同氏は7月17日になって「これは言い間違いだった」と訂正した。本当は「(米国大統領選への介入を)ロシアがやらなかったと信じる理由はないと思う」と言いたかったというのだ。米国大統領が自分の発言を公式に訂正するのは異例だ。トランプ氏の側近たちは、「特別検察官がロシア・ゲートについて捜査している中、ロシアの介入はなかったと示唆するような発言を大統領がするのはまずい」と助言したのだろう。

 米国の保守派政治家の間からも、トランプ氏の態度を批判する声が上がっている。共和党のジョン・マケイン議員は、この会見について論評した声明の中で「私が記憶する限り、トランプ氏がこの会見で見せた態度は、米国大統領による最も不名誉な態度だ」と断言した。そして「彼が見せた素人のような態度、エゴイズム、独裁者への共感が米国に与えた損害は計り知れない。トランプ氏がプーチン氏と首脳会談を持ったのは、誤りだった」と強い言葉で批判した。

 マケイン氏は、「トランプ大統領にはプーチン大統領に対して異議を申し立てる力がない。それだけではなく、トランプ大統領は異議を申し立てる意思すら見せなかった。トランプ大統領はメディアの正当性のある質問から意識的にプーチン大統領という暴君をかばっていた。この共同記者会見は、プーチン大統領が世界中に宣伝文句と嘘を拡散するための場を提供したようなものだ」と強い言葉でトランプ氏を攻撃した。

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