エリートのプロジェクトに反旗

 欧州の政治統合、経済統合は政治家、財界関係者、学者、報道関係者などエリートのプロジェクトである。これに対し、欧州各国の庶民は常に懐疑的だった。彼らは統合の深化を「自分の雇用を脅かすグローバル化の象徴」と見てきたからだ。英国のEU離脱は、エリートのプロジェクトに対して、庶民が反旗を翻したことを意味する。欧州委員会では、近年の反EU勢力の伸張を見て、「過去20年間の欧州統合の深化のプロセスは、エリートの利益を優先して、庶民の感情に十分配慮しなかった」と反省する声も出ている。今後欧州のエリートたちが庶民の信頼を回復すべく、統合の今後の道筋について見直しを迫られることは必至だ。

 しかし、時はすでに遅いかもしれない。英国における離脱派の勝利を見た庶民たちは、「国民投票」という武器の重要性を強く認識した。国民投票では、知識や所得水準は関係ない。数だけが勝負を決める。

 ドイツには、全国規模の国民投票は存在しない(この背景には、1930年代にドイツの国民が選挙によってナチスに政権を与えたことへの反省もあるだろう)。ただしフランスでは、国民投票は可能だ。将来、他のEU諸国でも英国と同じように、右派勢力が国民投票によって、EU離脱を目指す可能性がある。

 つまり英国を襲った激震は、EU崩壊に向けての第一歩となる危険があるのだ。欧州の地政学的な動きは、スピードを増す一方だ。日本企業にとっても、密度の濃い情報収集がますます重要になる。