欧州全体でポピュリズムが台頭

 さて右派ポピュリストが伸張しているのは、英国だけではない。EU離脱派の勝利は、欧州の他の国々の極右政党、ポピュリスト政党にとっても追い風となる。

 欧州大陸で最も過激な反EU政党が、フランスの「フロン・ナショナール(FN=国民戦線)」だ。ネオナチの扇動者の娘であるマリーヌ・ルペン氏率いるFNも、フランスのユーロ圏からの脱退、EUに譲渡された一部の国家主権をフランスへ返還すること、シェンゲン協定の廃止などを求めている。ルペンは、フランスに流入する移民の数を年に1万人に制限するとともに、同国に不法滞在している外国人の強制送還を要求。就職や社会保障サービスについては、外国人よりもフランス人を優先するべきだと提案している。

 2015年12月にフランスで行われた地方議会選挙では、FNが第1回目の投票で27.7%の票を確保し、第一党となった。この選挙結果は、11月にパリで発生した同時テロを受けて、極右政党に票を投じる有権者が増えた可能性を示唆している。2回目の投票では保守連合と左派連合が共闘したためFNは敗北したが、この選挙は特にパリ以外の地域でFNが支持基盤を拡大しつつあることを印象づけた。ルペン氏は、将来フランスの大統領になることをめざしている。

ドイツでも右派が躍進

 ドイツは第二次世界大戦中、ナチスに率いられて、ヨーロッパ全体に惨禍を引き起こした。この歴史的事実に対する反省から、ドイツでは極右政党が全国レベルで躍進することはなかった。ときおり極右政党がいくつかの州議会に議席を持つ程度だった。これはフランスとの大きな違いだった。

 だが第二次世界大戦後初めて、ドイツでも極右政党が全国レベルで勢力を伸ばしつつある。メルケル首相の難民受け入れ政策に反対するポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の全国レベルでの支持率は約11%。来年の連邦議会選挙で、議席を持つことが確実視されている。

 AfDは、今年3月にバーデン・ヴュルテンベルク州、ラインラント・プファルツ州、ザクセン・アンハルト州での州議会選挙で、2桁の得票率を記録した。

 またオーストリアでも極右政党・自由党(FPÖ)が勢力を拡大しており、今年4月から5月にかけて行われた大統領選挙では、同党のノルベルト・ホーファー候補者があと一歩で大統領になるところだった。右派勢力、反EU勢力はオランダ、イタリア、ポーランドなどでも勢いを強めている。

市民の不安感が追い風に

 欧州の右派ポピュリスト政党には、共通点がある。彼らはイスラム教徒の移民に批判的であり、多文化主義や複数主義に反対する。彼らは自国民の利益を優先し、リベラリズムに批判的だ。さらに、これらの政党は反グローバリズム、反ユーロ、反EUという点でも一致している。ポピュリストにとって、EUによる政治統合や経済統合は、自国の利益をないがしろにする、グローバリズムの象徴なのだ。

 そしてポピュリストたちは、議会制民主主義よりも、直接民主主義を重視する。ポーランドやハンガリーなど一部の国のポピュリスト政権は、三権分立、言論の自由を制限し始めている。

 ボン大学・政治学部のフランク・デッカー教授は、「伝統的な政党に強い不満を抱く市民が増えていることが、ポピュリズム政党にとって追い風となっている」と指摘する。

 多くの国で経済状況が悪化していることから、社会の中で外国人が増え、複数主義的な傾向が強まることに不満を持つ市民が増えている。グローバル化、デジタル化が進む社会で負け組になるという不安が、人々を保守主義に走らせている。さらに、難民危機や無差別テロに対する不安感も、右派勢力を有利にしている。ドイツですら得票率が2桁になるということは、右派政党の支持者が、労働者階級だけではなく、中間階層でも増えることを示唆している。
 ちなみに、欧州でのポピュリズムと排外主義の高まりは、米大統領選挙でドナルド・トランプ候補の人気が高まっていることとも重なり合う部分がある。大西洋の両側で、排外主義が勢いを増していることは、不気味だ。

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