つまり社会保障が手薄で格差が拡大している米国や英国では昨年、有権者の過半数が、右派ポピュリストに籠絡されたが、安全ネットが手厚い西欧の国々では、有権者が右派ポピュリストに「ノー」と言ったのである。

 筆者は、今後の選挙でも社会保障の手厚さが、ある国が右派ポピュリストに誘惑されるかどうかを占う目安の1つになると分析している。社会保障が削減されて安全ネットが薄くなり、所得格差が拡大する国では、右派ポピュリストが権力の座に就く危険が高くなる。

社会保障の過度な刈り込みは禁物

 9月24日には、ドイツで連邦議会選挙が行われる。反イスラム・反ユーロを標榜する右派ポピュリスト政党・ドイツのための選択肢(AfD)の支持率は、昨年は15%前後だったが、現在は10%前後に落ちている。同党は昨年ザクセン・アンハルト州など3州の議会選挙で2桁の得票率を記録した。当時は、まだ2015年の難民危機の記憶が生々しく、アンゲラ・メルケル首相に対する国民の不満が高まっていたことが背景にある。

 AfDの得票率が5%を超えて、同党が連邦議会入りすることは確実だ。だが9月末までに突発的な事態が起こらない限り、同党がこの国の政局に大きな影響を与える勢力にのし上がる可能性は少ないと思う。

 その理由の1つは、米英などに比べてドイツの社会保障制度が手厚く、病気や失業などで生じる負担を軽減するセーフティーネットが設けられていること。ドイツでは、政府機関が運営する年金保険、健康保険、失業保険、介護保険、労災保険への加入が企業で働く全ての勤労者に義務付けられている。

 調査会社ARDが今年5月に実施した世論調査によると、回答者の80%が「私の経済状態は良い」と答えている。こうした時期に、多数の有権者が無謀な実験を試み、AfDに票を集中させる可能性は低いと思う。

 筆者はその意味で、右派ポピュリストが政権を奪取するのを防ぐ最大の防壁の1つは、社会保障制度だと考えている。

 日本の社会保障制度は、米国に比べると充実しているが、ドイツやフランスに比べると、貧弱だ。たとえば、ドイツ政府は企業に対し、従業員が病気やけがで働けなくなった場合、6週間まで給料を支払うことを法律で義務付けている。日本では、労働基準法が病休の扱いを規定していないため、大半の企業は病休期間の給料を支払わない。このため多くのサラリーマンは、病気で休む時にはまず有給休暇を消化する。ドイツでは、病休のために有給休暇を取ることはあり得ない。

 社会保障は、単なるコストの問題ではなく、人間の尊厳に関わる政治問題でもある。欧米の状況は、わが国でも社会保障制度の過度な刈り込みが禁物であることを教えている。