英米と欧州大陸の投票結果に大きな差

 筆者は昨年の夏から現在までに行われてきた議会選挙や国民投票を観察してきて、1つのパターンに気がついた。それは、社会保障制度が手薄な国ほど、右派ポピュリストが権力の座についたり、自分たちの主張を国民投票で実現したりしていることだ。これに対し、社会保障制度が手厚い国では、右派ポピュリストが権力の座に就くことに失敗している。

 一般的に、欧州大陸の国々、特に西欧諸国では、社会保障制度が米国・英国に比べて充実している。たとえば、ドイツやフランスでは政府が失業者に援助金を与えるだけではなく、家賃や社会保険料まで支払う。これらの国々で行われた選挙では、米国・英国のように右派ポピュリストが勝利し、国の針路を保護主義・孤立主義の方向に転換する事態は起きなかった。

 2016年5月に行われたオーストリアの大統領選挙(第1次投票)では、右派ポピュリスト政党・自由党(FPÖ)のノルベルト・ホーファー氏 が約35.1%の票を獲得して首位に立った。だが憲法裁判所が「不在者投票の方法に不備があった」と断定したため、同年12月に再投票が行われた。二度目の投票では緑の党のファン・デア・ベレン氏が約53.8%の票を確保し、7.6%の僅差でホーファー氏に対して勝利を収めた。EUに批判的な右派ポピュリストがオーストリアの大統領に就任する事態は回避された。

 また今年3月にオランダで行われた総選挙でも、有権者は、中道保守勢力である自由民主国民党(VVD)に21.3%の票を与え、反EU・反イスラムを旗頭に掲げるヘルト・ウィルダースが率いる右派ポピュリスト政党・自由党(PVV)を第2位に押さえ込んだ。PVVの得票率は13.1%と、首位のVVDに約8%の差をつけられた。

 EUにとって最も大きなリスクを内包していたのは、フランス大統領選挙だった。国民戦線のマリーヌ・ルペン候補は「大統領に就任した場合、EUからの離脱に関する国民投票を行う」と宣言していた。英国とは異なり、フランスはEU創設国の一つ。したがってフランスが離脱した場合、EUの存立が根底から脅かされる危険があった。

 だがフランスの有権者は、EU支持派であるマクロン候補を大統領に選び、右派ポピュリストのエリゼ宮入りを阻止した。

 一方米国では右派ポピュリストであるドナルド・トランプ氏が大統領になり、英国では反EU派がEU離脱をめぐる国民投票で勝利した。つまりアングロサクソン諸国と、欧州大陸の西部に位置する国の間では、投票行動に大きな違いが現れた。この違いは、どこから来るのだろうか。

社会保障制度の強弱が差をつけた

 1つの原因は、社会保障の充実度である。右派ポピュリストが勝った米国と英国では、欧州大陸の国々に比べて社会保障サービスが手薄であり、失業したり重い病気にかかったりした際の、安全ネットが薄い。

 これに対しフランス、オランダ、オーストリアは、米英に比べて社会保障制度が手厚い。失業保険や健康保険、年金保険などは、所得を富裕層から貧困層に再配分する機能を持っている。つまり社会保障が、貧困率を抑制しているのだ。

 グローバル化によって工場が閉鎖となり、労働者が路頭に迷った場合、米英と西欧諸国の間では、失業したりホームレスになったりするリスクに大きな違いがある。たとえばドイツやフランスでは、失業した場合、政府が失業援助金以外に家賃まで払ってくれる。一方、米国にはこのような制度はない。