彼はフランス経済を大きく改革し、産業の競争力を回復しなくてはならない。特に約10%に達する失業率を抑えることは喫緊の課題だ。フランスの労働組合は、ドイツなど他国に比べて戦闘的であり、ストライキによって政府の施策に激しく抵抗する。隣国ドイツはシュレーダー前首相が発した「アゲンダ2010」の大号令の下、今から14年前に経済を根本的に改革した。その結果、大量の失業者を抱えて「欧州の病人」と呼ばれたドイツは、EU経済を引っ張る機関車役に生まれ変わった。

ドイツ型改革は可能か

 フランスは、果たしてドイツのようなカムバックに成功するだろうか。マクロン大統領は、肥大した政府の贅肉を減らしながら、しかも社会保障削減に対して市民が抱く不安を最小限にとどめつつ、経済を拡大させるという、一見矛盾した政策を両立させなくてはならない。これは、どの政治家にとっても至難の業だ。

 隣国ドイツのシュレーダー氏ですら、アゲンダ2010が国民に不評だったために、2005年の連邦議会選挙で惨敗し、首相の座を追われた。

 したがってマクロン大統領は、なぜ政府を縮小する必要があるのかを、有権者に理解させる必要がある。同氏はこの際に、社会保障制度を過度に刈り込むことは避けなくてはならない。つまり「角を矯めて牛を殺す」事態を避ける必要がある。財界と太いパイプを持っていたシュレーダー氏ですら、「社会保障制度を今後も長期的に維持するには、社会保障の中の行き過ぎた部分を減らす必要がある」という論法で国民を説得しようとした。

 ドイツの経済モデルは、「社会的市場経済(Soziale Marktwirtschaft)」と呼ばれる。これは自由放任主義に基づく米国や英国の経済モデルとは異なり、政府が法律による枠組みを整え、企業はその枠の中で競争する。競争に敗れた市民に対しては、政府が社会保障制度というセーフティーネットを提供する。

 ドイツ経済を大きく改革したシュレーダー氏ですら、社会的市場経済を破壊して米英型の経済モデルを導入しようとはしなかった。それは、秩序を重んじるドイツ国民が社会的市場経済を重視していることを、シュレーダー氏がよく知っていたからだ。