産業の空洞化が進む
フランスでは、大衆向けの製品を作っている業種で今も産業の空洞化が進行している。今年1月には、米国企業ホワールプール社が、パリ北部のソンム県・アミアンにある工場を閉鎖し、乾燥機の生産拠点をポーランドに移す方針を発表した。この工場で働いていた290人の市民が、路頭に迷う。フランスの工場労働者の1時間あたりの労働費用は、ポーランドの4.9倍。労働費用の高さが裏目に出た。この地域では、2010年以降、タイヤやマットレスなどのメーカー3社が、工場を閉鎖しており、2000人近い市民が職を失っている。
ルペン候補は、ドイツに率いられたEUのグローバル化政策が、フランス市民の職を奪っていると主張し、EUおよびユーロ圏からの脱退、自国通貨フランと関税の復活を公約に掲げる。
首都と地方の格差が拡大
フランスにおける右派ポピュリスト政党の躍進は、英国におけるBREXIT派の勝利、米国でのトランプ氏の大統領就任と同じ根を持っている。ルペン氏は、BREXIT派やトランプ陣営と同じく、社会の所得格差、大都市と地方の対立を問題視する。彼女はグローバル化によって取り残されたと感じている「負け組」の声を代弁し、伝統的な政治エスタブリッシュメントに真っ向から挑戦しようとしている。
フランスでも英国と同様に、首都と地方の格差が広がりつつある。フランス統計局(INSEE)が今年初めに発表した県ごとの失業率比較によると、パリの失業率が7.8%なのに対し、北部(パ・ド・カレー県など)や南部(エロー県など)では失業率が2桁に達している。
特に南部のエロー県やピレネー・オリアンタール県は、北アフリカからの移民とその家族が多く住む地域で、失業や犯罪が大きな問題となっている。2002年にルペン氏の父親が第1回投票で勝利を収めた地域は、まさに失業率が高いこれらの北部と南部の県だった。パリだけを見ていたら、フランスの地方部の疲弊が深刻であること、そしてなぜ有権者の5人に1人が国民戦線に票を投じるのかを理解することはできない。
だがフランスが必要としているのは、産業競争力を強化するための改革であり、ルペン氏が提唱するような孤立主義、保護主義ではない。
第2回投票で仮にルペン氏が敗退しても、フランスが成長力を回復して「欧州の病人」と呼ばれる不名誉な現状から脱却しない限り、国民戦線の脅威がこの国の頭上から消え去ることはないだろう。マクロン候補が大統領になっても、ドイツが2003年以降経験した、痛みを伴う改革を避けて通ることはできない。フランスの前に広がる道程は、険しいものになるだろう。
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