排外主義で有権者の心をつかむ

 ルペン候補は、「私が大統領になったら、テロ予備軍と見られる外国人を全て国外へ追放するとともに、国境でのパスポート検査を再開する」と主張している。

 さらにルペン氏は、罪を犯した外国人の滞在権を直ちに剥奪することや、失業した外国人の滞在権を1年後に剥奪することを提案している。そして①合法的な移民数を毎年1万人に制限する、②亡命申請への対応を日本並みに厳しくする、③EU域外の国との二重国籍を禁止することも求めている。また就職や社会保障について、外国人よりもフランス人を優先する法律を制定することも検討している。

 ルペン氏は、今回の大統領選挙の候補の中で、移民に対して最も厳しい姿勢を打ち出している。投票日直前に起きたテロ事件が、排外主義の旗手であるルペン氏にとって、一種の「追い風」となったことは否定できない。

 さらにルペン氏は、父親がしばしば行っていた反ユダヤ的、ネオナチ風の発言を禁止し、排外主義の矛先をイスラム系市民に集中させた。さらに女性や同性愛者の権利の保護も要求した。つまりルペン氏は、「極右政党」のイメージを極力薄めることで、中間層の票を得ようと努力したのである。今回の得票率上昇は、この戦略が部分的に功を奏したことを示している。

「欧州の病人」フランス

 もう1つの争点は、雇用問題である。現在フランスの失業者数は、約347万人。隣国ドイツの失業者数(約270万人)を約77万人上回る。欧州連合統計局によるとフランスにおける今年2月の失業率は10.0%で、EU28カ国の平均(8.0%)、ユーロ加盟国の平均(9.5%)よりも高い。ドイツの失業率の2.6倍である。1990年末から21世紀の初めにかけて、低成長と失業禍に苦しんだドイツは「欧州の病人」と呼ばれたが、今この不名誉なあだ名はフランスの状況を言い表すのに用いられる。

資料=欧州連合統計局<br /> 単位・%
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 両国の失業率に、なぜこれほど大きな差がついたのだろうか。2007年までフランスの失業率はドイツよりも低かった。ドイツでは2003年にゲアハルト・シュレーダー首相が「アゲンダ2010」の名の下に、戦後最も根本的な雇用制度と失業制度の改革を断行して、労働費用の伸び率の抑制に成功した。シュレーダー氏は低賃金部門を拡大することによって、一時は500万人に達していた失業者数を約200万人減らした。この改革は、ドイツでワーキング・プア―の問題を生んだものの、少なくとも雇用統計の上では失業者数を減らすことに貢献した。

競争力の回復が不可欠

 この結果、2009年以降、ドイツの失業率がフランスを下回り始めた。特にオランド氏が大統領に就任した2012年以降は、両国間の失業率の差が大きく拡大した。このことは、フランスの多くの有権者を失望させた。オランド大統領は、シュレーダー首相(当時)が断行したような、痛みを伴う改革に踏み切らなかった。もしも彼がドイツのように低賃金部門を拡大しようとしたら、労働組合の強硬な反対にあい、失敗に終わっていたはずだ。フランスの労働組合は、ドイツよりもはるかに戦闘的である。

 フランス産業界のアキレス腱の1つは、国際競争力の低さだ。フランスの輸出額は2000年には世界全体の6%を占めていたが、2012年には4%に下がっている。フランスの国内総生産(GDP)に製造業が占める比率は2005年には21.5%だったが、2015年には19.5%に低下した。

 フランス企業の国際競争力が低い原因の1つは、社会保障費用や税負担が重いことだ。

 政府比率を減らして、民間経済を活性化させることも、どの候補者も避けて通ることができない課題だ。この国の経済では政府の占める役割が、他の国々に比べて大きい。たとえば政府支出がGDPに占める比率(政府比率)が大きい。2015年のフランスの政府比率は56.8%で、欧州でトップクラスである。これはユーロ圏平均(48.7%)、EU平均(47.4%)を大幅に上回る値だ。ちなみに欧州経済のトップ・パーフォーマーであるドイツの政府比率は43.9%で、フランスよりも約13ポイントも低い。

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 マクロン候補は、国の歳出を600億ユーロ(約7兆2000億円)減らすとともに、公務員や公共企業の社員数を12万人減らすと提案している。

 またフランス中規模企業の国際競争力はドイツほど強くない。ドイツでは、ミッテルシュタントと呼ばれる中規模企業が、高いイノベーション力で知られ、特に企業間取引の市場で大きなマーケットシェアを持つ。ドイツの製造業界の屋台骨となっている。企業数の約99%を占める中規模企業に対して、政府が研究開発費を援助するなど積極的な振興策を取っていることが背景にある。これに対し、フランス政府は中規模企業の支援策をドイツほど積極的に行ってい ないために、こうした企業の国際競争力が劣っている。

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