ただし、ギリシャなどが債務を返済できなくなった場合、他の国が債務の肩代わりを迫られることになる。つまり「借金の共同化」である。これは欧州通貨同盟のリスボン条約が定める「ノー・ベイルアウト」条項に完全に違反する取り組みだ。

 ドイツのある経済学者は、ユーロ・ボンドについて、10人の友人と共同で銀行口座を開いて、「お金を使い過ぎないようにしよう」と約束するかわりに、10人全員にクレジットカードを渡すようなものだと警告している。

 マクロン氏は、大統領に就任する前、選挙運動の中でユーロ・ボンドの必要性を示唆していた。彼は、就任してドイツのメルケル首相を訪問した時に「ユーロ・ボンドを要求したことはない」と語っているものの、ドイツの保守派の間には、「独自の予算権を持つユーロ圏財務大臣のポストの新設は、ユーロ・ボンドにつながる第一歩ではないか」という警戒感が残っている。

フランスがEU指導国になる

 マクロン大統領は、EUの指導者の座をドイツから奪うべく必死の努力を行っている。彼は、2003年にドイツの首相だったゲアハルト・シュレーダー氏が実行したような改革を断行して、フランスの競争力の強化を目指している。彼はまず公的債務と財政赤字を減らして財政を健全化するために、富裕層への課税強化という痛みを伴う措置を実行している。

 マクロン大統領は昨年9月にパリのソルボンヌ大学で行った演説で、フランスを、デジタル化とイノベーションにおいて欧州で最も進んだ国にすると宣言した。彼の演説を読むと、ドイツを追い越すという野心がひしひしと伝わってくる。

 共和党・社会党という伝統的な政党に深く失望したフランスの有権者は、この若き指導者に権力を託した。それに比べると、選挙で大きく得票を減らした伝統的政党が、再び大連立政権を発足させたドイツは、政治に必要なモメンタム(勢い)を欠いている。ドイツの連立協定書を読んでも、マクロン大統領がソルボンヌ演説で示したような気迫が感じられない。ドイツの連立協定書は後ろ向きの内容であり、ポピュリスト政党の温床である社会の分断をどのように克服するかが、前面に押し出されていない。経済界でも不満の声が強い。ドイツ産業連盟(BDI)のディーター・ケンプ会長は、「デジタル化や教育改革など、重要なテーマについて明確な長期戦略が欠けている。経済にさらなる推進力を与える内容ではない」と批判している。

 マクロン大統領のように、伝統的な政党を飛び出してゼロから始める若い野心家がいないことが、ドイツの不幸かもしれない。

独仏間の主客交代

 現在この国の景気は、1990年に東西ドイツが統一して以来最高の状態にある。しかしドイツは、シュレーダー改革という過去の遺産で食べている。そのことについて、国民の危機感は薄い。かつてドイツ政治の安定の象徴だったメルケル氏はすでにレーム・ダック化しており、今から4年後には政治の表舞台を去る。ドイツは、彼女ほど外政・内政面で豊富な経験を持つ政治家を1人も持たない。私は、マクロン大統領がフランスの競争力を回復させることに成功した場合、EUの指導者としての地位をドイツから引き継ぐと考えている。メルケル政権の多難な船出は、欧州の勢力図が塗り替わる動きの第一歩なのだ。