南欧諸国との連帯を重視するSPD

 つまりSPDは、外務大臣(司法大臣だったハイコ・マースが就任)と財務大臣という最も重要なポストを獲得したのだ。このことは、SPDがユーロ圏やEUに関する政策をめぐって、将来、大きな発言力を持つことを意味する。

 新政権の連立協定書は、「欧州へ向けた新しい出発」と名付けた章を第1章に置いており、欧州統合の深化を最も重視している。これもSPDの主張に基づくものだ。SPDは、欧州を分断する右派ポピュリズムに対抗するには、欧州統合を深めるとともにユーロ圏や欧州議会を改革し、EUに対する庶民の信頼感を高めるべきだと主張してきた。欧州の右派ポピュリスト政党に共通するのは、EUに対する強烈な敵意である。

 興味深いことに、連立与党は協定書の中で「我々はEU予算へのドイツの貢献額を増やす準備がある」と宣言している。ここには、「ドイツは、EU加盟国の結束を強め、EUの財政基盤をより強固な物にするために、財政的な負担を増やすべきだ」というSPDの主張が反映している。

保守派は負担増加を危惧

 これに対し保守派の間で、「ユーロ圏の改革を進めれば、結局ドイツがこれまでよりも多くの出費を迫られることになるのではないか」という懸念の声が出ている。

 たとえば、CDU・CSUとSPDは、1月12日に大連立政権に関する準備協議を終えて、政策の合意内容を発表した。その中には、すでに「ドイツはEU予算への貢献を増やす準備がある」という一文があった。欧州中央銀行の主任エコノミストだったドイツの経済学者オトマー・イッシング氏は、今年1月26日に、同国の保守系日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)に、新聞の1ページを埋める論文を掲載し、連立与党が掲げる対EU政策を厳しく批判。「3党の合意内容は、フランスや南欧諸国の提案に迎合して、ユーロ圏の財政規律を弱める。ユーロ圏の加盟国は他国の債務の肩代わりをしないという、ドイツ市民に対する約束を破るものだ」と述べた。

 イッシング氏は、「1990年代にドイツ市民は、当時のコール政権が『ドイツが南欧諸国の債務の肩代わりをさせられることはない』と約束したから、マルクを放棄してユーロを導入することに渋々同意した。SPDの筆跡が濃い連立協定書は、当時の約束を反故にする危険をはらんでいる」と警告した。

 ドイツの財務大臣がCDUのショイブレ氏からSPDのショルツ氏に代わることで、南欧諸国との連帯を深めるという大義名分の下に、この国は財政出動にこれまでよりも積極的になる可能性がある。

マクロン大統領のユーロ圏改革案

 フランスのマクロン大統領は、独自の予算権を持つ「ユーロ圏財務大臣」のポストを、欧州通貨同盟に新設するべきだと主張している。ユーロ圏の予算と言えども、元は各国の納税者からの税金だ。ドイツの保守派は、ドイツの国家予算については連邦議会が最終的な決定権を持つべきだと考えており、超国家的な機関がドイツの国家予算に介入することについて反対するだろう。

 さらにマクロン大統領はEUに「銀行同盟」を創設し、2024年までに域内共通の預金保護制度を導入するというEUの提案に賛成している。たとえばギリシャの銀行が債務超過のために倒産して、同国の預金保険の資金が底をついた場合、ギリシャ市民の預金は、EU共通の預金保護制度で守られることになる。

 これについて、ドイツ銀行協会などが「EU加盟国の中には、自国の預金保険制度をまだ確立していない国もあるので、EU共通預金保護制度を導入するのは時期尚早だ」という反対意見を出している。ドイツの保守派からも、「他国の市民の預金を守るために、ドイツのカネが動員される」という危惧の声が上がる。

 もう1つ、ドイツの保守派が警戒しているのが、ユーロ・ボンドだ。この制度が導入されると、ユーロ圏の加盟国は共同で国債を売ることになるので、各国は個別に国債を売る必要がなくなる。ギリシャやイタリアなど、公的債務の累積額が多いために投資家から警戒されている国は、これまでよりも借金をしやすくなる。

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