
2018年3月14日、ベルリンの連邦議会議事堂。居並ぶ議員たちの投票によって、キリスト教民主同盟(CDU)党首のアンゲラ・メルケル氏が、連邦政府首相に選ばれた。メルケル氏は直ちに宣誓式を行い、連邦大統領によって首相として認証され、第4次メルケル政権がようやく始動した。
首相投票で33人が造反
ドイツでは、昨年9月の連邦議会選挙から、171日間も政権の空白状態が続いた。第2次世界大戦後、この国で、選挙から政権の誕生までに6カ月近くかかったのは、初めてのことである。昨年の選挙では、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と社会民主党(SPD)という伝統的な政党が得票を大きく減らして後退し、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が一気に第3党になった。ポピュリズムの高まりという地殻変動が、政権誕生を大幅に遅らせたのだ。
実はこの日の首相選挙でも、ある「異変」が生じた。今期の連邦議会の議席数は709なので、メルケル氏が首相に選ばれるには、過半数つまり355票を必要とする。大連立政権を構成するCDU・CSUとSPDの議員のうち、この日投票に参加したのは、397人。つまり連立与党の議員が全員メルケル氏に賛成すれば、彼女は余裕をもって首相の座に就ける。
しかし蓋を開けてみると、メルケル氏の首相就任に賛成した議員の数は、364人にすぎなかった。メルケル氏の得票数は、過半数を9票しか上回らなかった。つまり連立与党に属する議員のうち33人が、メルケル氏の首相就任に反対したのだ。
連邦議会のヴォルフガング・ショイブレ議長がこの投票結果を読み上げると、議場には一瞬氷のような沈黙が流れた。だが、すぐにCDUの議員たちが立ち上がってメルケル氏に拍手を送って祝福し、気まずい雰囲気を打ち消した。
造反者はSPDか?
33人の造反は、政権の船出に苦い後味を残した。首相選挙は秘密投票なので、誰が投票用紙に「ナイン(メルケル氏の首相就任に賛成しない)」と書いたのかはわからない。ただし、投票結果が判明した時、SPDの議員の中には、拍手をしない者が目立った。SPDの左派に属する議員の間には、「CDU・CSUとの連立を続けると、有権者がSPDに寄せる信頼がさらに減る」として、大連立への反対姿勢を崩さない者が多かった。したがって、ドイツのメディアは、造反組の33人には、SPD議員が多かったものと推測している。
SPDの議員たちが感じる失望は、理解できる。彼らは、昨年の9月以来、当時党首だったマルティン・シュルツ氏が右往左往するのに振り回されてきた。
そもそもSPDは、選挙後、野党になるはずだった。連邦議会選挙でSPDの得票率は、結党以来最低の水準に落ち込んだ。このためシュルツ氏は、「大連立政権には加わらず、野に下って党を再建する」と宣言した。しかし、メルケル氏は、自由民主党(FDP)と緑の党との4党連立に失敗。再選挙の可能性も浮上し、政権の空白状態が長期化する危険が強まった。シュルツ氏は連邦大統領から「党の利益よりも国益を優先してほしい」と請われると、野党になる方針を撤回し、大連立に賛成した。一貫性を欠くシュルツ氏の態度に、SPDの多くの党員が唖然とした。
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