32.7%の票を獲得した五つ星運動のルイジ・ディ・マイオ代表(写真:AP/アフロ)
32.7%の票を獲得した五つ星運動のルイジ・ディ・マイオ代表(写真:AP/アフロ)

 昨年9月のドイツ総選挙に続き、イタリアでもEUに懐疑的なポピュリストたちが躍進した。欧州統合に対する逆風が強まっている。

ドイツに続きイタリアでも政治空白が長期化へ

 3月4日にイタリアで行われた総選挙では、左派ポピュリスト勢力・五つ星運動と中道右派連合が得票を増やし、民主党(PD)が率いる中道左派は得票を激減させた。だが五つ星運動、中道右派連合ともに単独では議席の過半数を占めることができない。このためイタリアの報道機関は、同国では今後、連立政権の樹立をめぐって延々と交渉が続き、政権が誕生するまでに相当の時間がかかると予想している。

 イタリアで政治の空白が続くとの予想から、イタリアの主要株価指数FTSE・MIBは3月5日に約2%下落。10年物のイタリア国債の利回り(リスクプレミアム)は、3月3日の2.036%から3月5日の2.1%へ上昇した。

 ドイツでは3月4日に社会民主党(SPD)の党員の過半数がキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)との大連立を承認し、第4次メルケル政権の誕生が確定したばかり。昨年9月から約半年にわたってドイツで続いた政治の空白が終わった直後に、今度はイタリアで政府の真空状態が始まることになった。

有権者の7割が右派・左派ポピュリスト政党を支持

 イタリア内務省によると、「同盟」「フォルツァ・イタリア」などで構成する中道右派連合(チェントロデストラ)の得票率は約37%。これは、前回(2013年)の選挙に比べて約7ポイントの増加である。

 かつて「北部同盟」と呼ばれていた「同盟」は排外主義的な傾向が強い右派ポピュリスト政党。「裕福なイタリア北部が、貧しいイタリア南部の財政を負担するのは不当だ」として、北イタリアの独立を主張していた。だが今回マテオ・サルビーニ党首は、経済状態が北部よりも悪い南部の有権者の票を獲得するために、「北部」という言葉を党名から外し、南部で積極的な選挙戦を展開。この戦略が功を奏した形だ。彼は「ドイツ、EUそして金融業界の呪縛からイタリアを解放する」と宣言し、首相の座を目指すことを明らかにした。

 「フォルツァ・イタリア」も、脱税の罪で2013年に有罪判決を受けた元刑事被告⼈シルビオ・ベルルスコーニ元首相(81歳)が率いる右派ポピュリスト政党だ。

 また左派ポピュリスト勢力・五つ星運動の得票率も前回に比べて約7ポイント増えて、約32.7%となった。五つ星運動は、単独の勢力としては最高の得票率を記録した。五つの星とは、①環境保護、②清浄な水、③テクノロジーの進歩、④インターネットの接続、⑤環境に負荷の少ないモビリティーを意味する。この運動は、イタリアの伝統的な政党の腐敗や密室政治に対するアンチテーゼとして、テレビで人気のあるコメディアン、ベッペ・グリッロが2009年に創設した。弱冠31歳のルイジ・ディ・マイオ代表は、イタリア政府の首相の座に就く意向を表明している。

 つまり有権者の約70%が、左派もしくは右派のポピュリスト勢力に票を投じたことになる。これらの運動・政党は全て、EUの緊縮策や移民政策に反対している。つまりイタリア国民の大半は、欧州統合の深化に「ノー」の姿勢を示したことになる。

 これに対し、EUに比較的友好的なマテオ・レンツィ前⾸相が率いる社⺠勢⼒は、有権者から厳しい審判を下された。中道左派連合(チェントロシニストラ)の得票率は、前回の選挙に比べて約7ポイント減り約23%となった。同時に行われた上院選挙でも、五つ星運動と中道右派連合が躍進し、中道左派連合が後退した。

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