米国への依存からの脱皮を目指すドイツ

 トランプの圧力は、欧州の安全保障地図を塗り替え、米国からの「乳離れ」を促す可能性がある。今欧州の安全保障関係者の間では、「米国がNATOへの関与を減らす場合に備えて、我々は防衛能力を高める可能性がある」という意見が強まっている。

 ドイツのジグマー・ガブリエル外務大臣は、MSCの直前に行ったドイツの保守系日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ紙(FAZ)とのインタビューの中で「欧州諸国は、いつまでも米国に防衛してもらえばよい、自分たちは何もしなくてよいと長い間思い込んできた。だがそうした時代は、完全に終わった。我々は、強い欧州を作らなければならない。そうしなければ、トランプ、プーチン、中国から一人前のパートナーとして見られることはない」と断言している。

 彼は「米国がリーダーとしての役割を果たさなくなるのであれば、欧州は防衛力の強化という、長年の課題を実行に移さなくてはならない」と述べ、米国との新たな関係を模索することになるだろうと指摘した。

 さらに過激な意見も出ている。ポーランドの元首相ヤロスワフ・カチンスキーは、今年2月初めに「米国が欧州を防衛しないとしたら、欧州は独自の核抑止力を持つべきだ」と発言した。

 かつてソ連の支配下に置かれた中東欧諸国は、米国に対して、ロシアの脅威から自分たちを守る守護者の役割を期待してきた。中東欧諸国が、独仏とは異なり、ブッシュ政権のイラク侵攻を支援したのは、そのためである。だが中東欧諸国の期待は、トランプ政権の誕生で大きく揺らいでいる。「米国の核の傘は、本当に頼りになるのか?」。カチンスキ―の発言の背景には、NATOの将来について不透明感が強まったことに対する、中東欧諸国の焦燥感がある。

平和の配当を享受できる時代は終わった

 MSCの2日後、ドイツ連邦政府は連邦軍を増強すると発表した。連邦軍の将兵の数は現在17万8000人。これを2024年までに2万人増やして19万8000人とする。ドイツは東西冷戦の終結後、徴兵制を廃止した他、将兵の数を年々減らしていた。欧州の中央に位置するドイツは、冷戦終結による「平和の配当」を最も享受してきた国の1つである。

 だがロシアだけではなく、大西洋の反対側の米国、そして中東や北アフリカでも、地政学的な不透明感が強まりつつある今、ドイツは「米国のいない西側陣営」の中で指導的な役割を果たすよう、EU諸国から求められる可能性がある。ドイツが平和の配当を享受していればよい、居心地の良い時代は、終わったのだ。

 2017年は、ドイツそしてEU諸国が米国からの自立を目指し始める、重要な分水嶺となるかもしれない。

欧州の対米戦略に注目するべきだ

 我々日本人は、米国の豹変に直面した欧州人たちの焦りと不安感を、対岸の火事として眺めているだけでよいのだろうか。SIPRIによると、日本の2015年の防衛支出はGDPの1.0%で、ドイツよりも低い。409億ドルも防衛に支出しているのに、対GDP比率が低いのは、経済規模が大きいためだ。つまり日本も、ドイツと同じ悩みを抱えている。

 万一トランプ政権が、日本に対しても防衛費増額を要求してきた時、我が国はどう答えるのか。欧州とアジアの地政学的状況は大きく異なるとはいえ、欧州が考える対米戦略の中に、我々が学べる内容もあるはずだ。本シリーズでは、今後も欧州諸国の動きについてお伝えしていくつもりだ。

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