ペンスは「北大西洋条約は、加盟国が攻撃を受けた場合、他の国が結束して反撃するという集団的自衛権の原則に基づいている。この原則は、加盟国が応分の貢献をすることも義務付けている」と述べ、「NATO加盟国は、約束した防衛費をきちんと負担することを約束した」と欧州諸国に矛先を向けた。NATO加盟国は、2006年の会議で、「2024年までに、国内総生産(GDP)に対する防衛支出の比率を、2%に引き上げる」と合意している。

 その上でペンスは「この約束は、あまりにも長い間、大半のNATO加盟国によって無視されてきた。この約束を達成したのは、まだ数か国にすぎない。欧州の大国の中にも、防衛費を本格的に増やす努力を始めていない国もある。この約束不履行は、軍事同盟の基盤を侵食している」と批判した。米国の本音は、「NATOへの関与を続ける」という外交辞令ではなく、むしろこちらの方だろう。

ドイツに向けられた矛先

 ペンスは名指しを避けたが、「防衛費を増額するための真剣な努力を始めていない大国」とは、欧州最大の経済パワー・ドイツのことである。NATOの統計によると、2016年のドイツの防衛支出の対GDP比率は1.19%で、2%の目標から遠く離れている。英国(2.21%)やフランス(1.78%)にも水を開けられている。ペンスは「我々は、同盟諸国がこの目標を達成することを期待している。今や、本格的な行動を始める時だ。欧州の防衛には、米国だけでなく欧州の貢献も欠かせない」と釘を刺した。

ドイツの防衛支出
ドイツの防衛支出
(出所:ドイツ連邦政府)

 つまりペンスの発言は、「ドイツなどが応分の防衛負担を怠り、欧州の防衛について米国に過度に依存しているのは、もはや許せない。米国が将来NATOに関与し続けるのは、他のNATO加盟国が防衛費増額の約束を守った場合のみだ」というメッセージを含んでいるのだ。

 MSCの会場でペンスの演説に対する拍手は、少なかった。彼の発言は、外交辞令のオブラートに包まれていたとはいえ、しょせんはトランプによる欧州批判の繰り返しである。このため欧州諸国の外務大臣や国防大臣たちは、喝采を送る気にならなかったのだろう。

 MSCでメルケルは、「防衛支出の増額は、徐々に行うべきものであり、効率性についても配慮しなくてはならない。安全保障に貢献するのは、防衛支出の増額だけではない。発展途上国への援助や教育水準の改善、難民の援助も安全保障にとって重要だ」と反論。議論の焦点を防衛支出だけに絞り込むトランプ政権の姿勢を、間接的に批判した。

 同時にメルケルは「対GDP比で2%」の目標達成に向けて努力する方針を強調するとともに、「欧州はイスラム過激派の脅威とロシアの野心に直面しており、米国の軍事力を必要とする」と述べ、欧州が独力ではこの2つの試練に対応しきれないという本音を漏らした。

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